これだけは知っておきたいシリーズ 〜債券〜

ポートフォリオの基本構成は、株式と債券です。ポートフォリオに組み込んだ債券は、株式下落時のヘッジ効果を期待することが多いですが、その効果の程度は時と場合によります。債券の構造とリスクを理解していれば、「債券=安心」は成立せず、慎重に選択する必要性をご理解いただけると思います。


債券とは、企業、国、地方公共団体などの発行体が、資金調達のために発行する有価証券です。投資家は、発行体にお金を貸す代わりに、利金(割引債であれば貸出金額より高い額面を獲得する権利)をもらいます。


債券は、発行日、 額面、利率、償還日などが決められて発行されます。資金調達をしたい発行体にとっては、借入日、借入金、額面に対して投資家に支払う利金の割合、返済日です。投資家にとっては購入日、貸す金額、貸したお金に対する利金の割合、貸したお金が帰ってくる日です。

その後、債券を買った投資家は、市中で売却したいと考えるかも知れません。その場合の債券価格は需給によって決まります。二人目以降の債券取得者は額面で購入しません(償還される金額は、額面の金額です)。例えば、額面100円、利率5%の債券があったとします。債券に対する需要が大きければ、利回りは4%でもいいから買いたい!という人現れるかもしれません。要求利回り4%の場合、利率は一定ですから、債券価格が高くなります。例えば、利回り5%=利金5円/債券価格100円かつ買い手の要求する利回りが4%の場合、利金は一定ですから、左項と右項を等しくするためには、分母である債券価格を引き上げます。この式に当てはめれば、不動産と同様に、債券は、買い手の要求利回りが上がることで価格が下がりますし、要求利回りが下がれば価格は上がります。買い手が増えれば増えるほど低い利回りとなり価格は上昇しやすくなります。


では、投資家の要求する利回りは、どのように決まるのでしょうか。

ベース金利+上乗せ金利(スプレッド)

ベース金利とは、基本的にその国で一番信用力のある国が発行する国債の利回りです。国債は、国が資金調達するために発行する債券であり、ベース金利とはその資金調達コストを指します。

上乗せ金利(スプレッド)は、 国よりも信用力の小さな企業などがお金を借りる際に、信用力や上述のような需給によって上乗せする金利です。

そのため、ベース金利(特に注目すべきは米国債利回り)が上昇→同じ通貨建ての機関債や社債などの債券利回り上昇、上乗せ金利が上昇→債券利回りが上昇することがあります。利回りが上がるということは、債券価格の下落を意味しますから、ベース金利や上乗せ金利の上昇は、債券保有者にとってはリスクです。


種類は多岐に渡ります。

- 政府の国債地方公共団体の地方債、政府関連の機関債:ベース金利の影響を受けやすいです。

- 格付けがBBB以上の投資適格債、BB以下の投機的各付債(ハイ・イールド債)→ ベース金利、スプレッドの影響を受けやすいです。

他にも、一定期間で利金(クーポン)がもらえる利付債、利金はもらえないが額面より安く発行される割引債(ゼロクーポン債)があります。


債券の価格変動要因として、以下の要因が挙げられます。株式とは異なるものですが、往々にして株式と同様に市場予想によって左右されるきらいがあります。

金利:市場金利が上昇すれば債券価格は下落し、市場金利が下落すれば債券価格は上昇します。例えば、中銀が金融緩和的政策に前向きなハト派に転じれば利下げ予想から債券価格は上昇しやすいですし、タカ派的なスタンスをとれば利上げ予想から債券価格は下落しやすいです。2013年には、当時FRBの議長であったバーナンキが、量的緩和の縮小に触れたことで、米10年物の国債利回りが急騰し、債券価格が10%以上下落しました。金利の主な変動要因は、「これだけは知っておきたいシリーズ~金利~」で触れた通り、インフレです。一般的に、インフレが予測されるな政策金利が引き上げられ、インフレ率の低下が見込まれるならば政策金利が引き下げられます。
信用:発行体の財務状況等の悪化で利金の支払いやお金を返還してもらえなくなる可能性が高まることによって、上乗せ金利が上昇します。例えば、国であれば財政赤字、企業であれば財務状況の悪化によって、上乗せ金利(スプレッド)が上昇することによって、価格が下落します。例えば、ギリシャ危機などデフォルト懸念が浮上することによってCDSがたくさん売られましたが、そうした懸念は同時に国債利回りは高騰させます。リーマン・ショックでは、デフォルト懸念からBB格以下のハイ・イールド債券(一般的に信用リスクが高い)は利回りが5%程度から20%を超え、価格が大幅に下落しました。また、昨年末には財務状況の悪化したイタリア10年国債の要求利回りが上昇し、価格が下落したことから、一時ドイツ10年国債とのスプレッドが320bpを超えました。(イタリア2年物も大きく下落しましたが、短期でのデフォルトは考えにくく割安でした)。他にも、5年前にエスピリト・サントが破綻した際は、株式が100%下落、続いて転換社債は96%下落、社債は徐々に下落して95%下落しました。注意すべき事項は、株式は倒産よりも前に上下動きがありましたが、転換社債社債は特に大きな動きがなかったことです。価格が安定的ということは、リスクを図る上で重要な指標ですが、それだけでは本来のリスクを見誤る可能性があるということです。
為替:外貨建て債券では、為替が変動することで為替差損が発生する可能性があります。例えば、昨年、米国の利上げに伴い、新興国通貨と比べて相対的に魅力的となった米ドルに資金流出し、新興国の通貨安が進行したことは記憶に新しいです。
投資家心理:「リスクをとってもいいから、高い利回りが欲しい」など、リスク資産に資金が流入する局面では、ハイ・イールド債や新興国債券等は本来のリスクに見合わないほどに、利回りが低下して、価格が上昇することがあります。上述の通り、サブプライム・ローンが破綻する前までは、資金流入が続いたハイ•イールド債は、金融ショックシナリオの実現によって大幅に価格が安くなりました。
このようなリスクは頻度が少ないと思われがちです。証券会社や多くの投資家は、株価であればモメンタムや、債券であれば平時の安定的な推移で判断する傾向がありますが、特にハイイールド債や劣後債、バンクローンなどは、信用リスクの顕在化によって値を大きく下げます。一見すると事例の少なそうな信用リスクですが、過去に何度も顕在化しています。高い利回りと言う理由で投資するのではなく、どのようなリスクが横たわっているか理解し、起こり得るリスクシナリオの構築やポートフォリオの目的に見合った債券であるかを見極める必要があります。

ちなみに、変動金利であれば、金利が変わっても債券価格は大きく動かないのではという問いもありますが、これは確かにその傾向があります。しかし、信用リスクが顕在化したならば、変動金利社債も、他の債券と同様に下落する可能性が高いです。


ポートフォリオを作る際の参考として、債券の利回りと、他のアセットの価格の間には深い関係があります。ご承知おきの通りですが、国債利回りが上昇すると、株式とREITも動きます。金利、信用、為替、投資家心理の変化を通じて、国債利回りは大きく変動するわけですが、その根源には、経済成長やインフレ率の上昇が横たわっているのです。つまり、経済成長やインフレによって景気が回復すれば企業業績が上昇することを意味しますから、株価は上昇します。また、債券利回りが急上昇した際は、一部のセクターの株式やREITは下落しやすいです。REITについては別の記事で触れますが、下落要因として、第一に、金利上昇による金融アフォーダビリティの悪化です。第二に、資本コストの上昇に伴うFCRが悪化します。第三に、割引率が上昇し、IRRが悪化します。一般的に、不動産と株式の間にはプラスの相関関係がありますが、国債利回りの上昇局面では、全く正反対の動きをすることがあるために注意が必要です。


○補足

-最近の金融政策

主要国の金融政策はハト派に転じつつあり、欧州を中心に債券価格が上昇しています。特に欧州の高格付や国債利回りはゼロに近く、インフレを勘案すると実質的にはマイナス利回りとなりました。

- ECBは先週の会合で、政策金利を19年末まで据え置く方針としました。また、銀行貸出を促進するTLTROの再開も発表しています。(欧州委の楽観的な見通しは注意が必要そうです)
- 中国は3月の全人代(国会のようなもの)で、金融政策に関する生命から「中立」という表現が消しました。※関税協議に伴い、中銀の政策に政治的な圧力が加わる可能性はあると思います。
- FRBは、ガイダンスで利上休止が数カ月続く可能性を示しています。※コアPCEインフレ率は低水準ですが、非農業部門の失業率と賃金の伸び率は好調で、インフレ懸念(利上げの可能性)があります。

いずれも、足元の経済成長率/インフレ率の予測の悪化が、金融緩和的な政策の根本にあり、金利が上昇しないという予測から、債券価格が上昇しています。


-債券の利回りの種類

債券の利回りの種類はら応募者利回り、最終利回り、所有期間利回りなど種類が多いですが、本質的な考え方は同じです。

(年間のインカムゲインキャピタルゲイン)/購入価格

これだけです。利回りの種類によって、タイムホライゾンが募集/購入~売却/償還の違いだけなので、言葉が違うだけで意味合いは同じです。他にも直接利回りというものがありますが、インカムゲイン/購入価格という公式で、キャピタルゲインを考慮しないので実用的ではありません。最終利回り(終利)だけ覚えておけばいいと思います。


-デュレーション

債券を購入する際に、疑問に思った方も多いと思います。(修正)デュレーションとは、「債券利回り変化に対して、債券価格がどの程度動くのか」を表します。単位は「年」です。例えば、デュレーション2年の債券利回りが1%上昇した場合、債券価格は利回り変化の約2倍である2%下落します。デュレーション3年でしたら、3%下落します。デュレーションが大きいケースでは、利回りが変化した時の価格変動が大きくなる傾向にあります。