運用で最も大切なことは、ポジション管理

 一部の市場参加者は、「主要なシナリオについて確信に満ちた状態」という印象です。例えば、「緩やかなインフレ率の下、英国を除くG7の経済成長はピークを過ぎるも、堅調に成長する。」というシナリオは、確かに日々のマクロデータで検証されつつあります(最近足元指標は悪くなってきました)。反対に「市場参加者がリセッション入りと認識するほどの期間、経済成長率が潜在成長率を下回る」というシナリオもあながち誤りだと明言できません。しかしながら、どれほど確からしいシナリオでも、単純に受け入れてはならないと考えています。後述の通り、マーケットがどのように反応するかなど、世界最先端の複雑な理論を使って、大量のデータを分析しても外れるからです。

 一方で各社が「重要な課題として、何をリスクと捉えているか」は大まかなところでは一致しているようです。それは、「米国の利上げペース」、「原油価格の動向」、「中国の景気刺激策の効果」です。前者2つのキーバリュードライバーは期待インフレ率の動向ですが、その根源には「米中の経済が安定的に成長するか」という問いかけがあります。GDP成長だけではなく、周辺地域との関わりにおいても、米中が世界経済そのものを動かしていると言っても過言ではないからです。その動向が、日本を含む先進国、新興国の経済状況や資産動向を大きく左右するでしょう。

  • 第一に、Fedの利上げ回数です。逼迫した労働市場/賃金上昇率や、不安定な原油価格や関税による生産者物価の上昇によって、予想を超えてインフレ率が上昇下場合、Fedの利上げ回数が上昇してしまうこと(私はベースシナリオでは1回と予測)です。それによって、市場コンセンサスでは、米国の予想成長率は、18年2.6%から19年2.0%へち減速を見込んでいますが、実績が、潜在成長率を多少上回るのか、一時的に潜在成長率が実績値を下回るも徐々に戻すのか、市場がリセッション入りとみなすほどの期間下回るかのかによって、経済・資産価格は大きく左右されるでしょう。
  • 第二に、中国の景気刺激策です。デレバレッジ(質的な引き締め)に対する景気刺激策の効果が、昨今のデレバレッジや関税による影響を穴埋めできるほどのものか。例えば、2016年では、中国の経済刺激策がきいて、数ヶ月後に世界中の景気指標が回復したことは記憶に新しいです。
  • 第三に、原油です。世界的な貿易量の減少を背景に原油の需要には減少圧力がかかっていますが、イラン制裁・サウジ懸念など地政学的な緊張の高まりによりエネルギー輸出が部分的に途絶し、供給量が限られることによって価格高騰が懸念されます。その後、企業の生産者物価に悪影響を与え、インフレ率が予想を超え短期的に上昇し、金融政策に悪影響を与える可能性があります。

これらの3つが、経済/資産価格に大きな影響を与えるということは、大まかなところでは一致していると思われますが、3つの重要な課題から分岐するシナリオは具体的にどういうものなのかという見解はまばらです。第一と第三の項目は、FRBの金融政策に影響を与えるわけですが、それによってソフト〜ハードランディングのグラデーションの中で、どこに着地するかに大きな影響を与えると考えます。良い方向に考える者、悪い方向に考える者、現状と大差ないと考える者といったふうに様々ですが、これも景気サイクル後期では良くあることのように思います。

市場参加者がどのような未来を見込んでいるのかによって、日々のマクロデータやニュースは解釈されマーケットは揺れ動くわけですが、時代や短期的な局面によって重要視されるデータや解釈は異なります。例えば、2018年の米中間選挙でねじれ国会が誕生しました。それを受けて、当初は「政策運営が困難になったため売り」というシナリオが優勢でしたが、翌日は「イベント通過、不透明感が払拭されたため買い」,その後は「ねじれ議会による外交穏健化」と日に日に移ろい,史上最高株価を叩き出した共和党の政策は見事に忘れ去られたかのようでした.このように「ねじれ国会」というテーマ一つとっても、アニマルスピリッツはデータを都合のいいように解釈し、「連想買い→妄想と気づく」を繰り返します。

加えて、リセッションを含め様々なシナリオが混在し、このような思惑が入り混じりやすい景気サイクル後期では、高ボラティリティが発生しやすくなりますが、それに拍車をかけるように近年増加したCTA等ファンド勢がボラティリティを高めているようです。

カオス的なマーケット環境下で、予測をすることは無謀と言ってもいいかもしれません。その証左として、運用会社や証券会社がどれほど複雑なモデルを使っても、先に触れた業績についても、金利先物についても半分以上は外れる印象です。

投資の本質は、ポジションの管理です。ポジション管理とは、現預金を含むアセットがどのようなリスク(リターン)シナリオ(重要課題の展開)の上に横たわっているのかを把握し、それら考えうる可能性としてのリスクシナリオが生み出すマーケットへの影響をできるだけ排除するような、資産配分、プロダクト、投資戦略を構築することによって、上下動く世界の成長を少ない誤差で収穫しようということです。もちろん、よく本に書いてある標準偏差や期待ショートフォール、最大ドローダウン、シャープレシオソルティノレシオなどの算出は、こうした戦略構築の一環であります。

しかし、トランプが何をいうかわかりません。ですから、「将来は実現した時にようやくわかる」という私の立場では、3つの重要課題あるいは日々のグローバルな重要な出来事がもたらしうる複数のシナリオごとに、マーケットへの影響を評価し、ポジション管理を徹底するということです。そうした解釈は、資産配分比率や運用のタイミング(どれくらいの間隔で何%ずつ資本投下するのが有利か)、リスク量の管理、デリバティブなどの戦略に現れますから、どのようなリスクシナリオの上に私たちのアセットは横たわっているのかをできうる限り認識したいところです。私の顧客は、今の時点で2.7ヶ月に一度、4%程度ずつポートフォリオを作っているので、5年強の間でリセッション入りしてくれるとパフォーマンスがグッと上がるなーと思っています。

ポジション管理のなかでも資産配分については、世界トップ中のトップの投資家たちが、言及するところでもあります。例えば、Yale大学基金「投資の成果の8割は、資産配分に起因する」、ブリッジウォーターのレイ・ダリオさん「投資家として重要なのは、最も重要なのは優れた資産配分戦略を持つことだ。言い換えれば、次はどうなる、何がよくなり何が悪くなるかを知ろうとしても勝てないということ。間違いなく失敗する」。単純に、彼らのポジションを真似すれば、キャッシュの潤沢さも取れるリスク量も異りますから、痛い目を見ることになるかもしれません。ハーバード、イェールなど大学基金、年金、保険が使っている「オルタナ戦略」は、キャッシュリッチで、最大ドローダウンが生じても、平均単価を押し下げることができるというポジションですから、単純に個人投資家が真似してはいけません。しかしひとついえることは、資産配分の重要性は、偉大な投資家たちによって散々指摘されていることなのにのに、投資のタイミングや、プロダクションの選定にこだわるのかよくわからないということです。もしかすると「この会社は上がる」というシナリオの方がわかりやすくていいのかもしれませんが、多くの資産クラスにとって、今後の10年は、過去の10年と同じようにはいかないことは、過去30年の各資産のIRRをとってみれば、よくわかります。いつでも勝てる投資というものは、ほとんどないのではないでしょうか。

単一のリスクに全てを捧げるのではなく、ポジション管理が大切です。