HUGE CLARITY

1.非自明
 最近、ソフトバンクの株式を買いたいと思いまして、孫正義さんが目標とするところの情報革命の現況、それをけん引するソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)のマーケット評価、彼らの事業特有のマーケットリスクとヘッジ戦略、そうした諸問題に立ち向かうための組織体、特に近しい未来に訪れるであろう後継者問題に思いを巡らせていました。
 細かい論点はさておき、ソフトバンクのここ数年の歩みについて、順を追ってみましょう。ここ数年間、孫さんが決算説明会でよく言及するように、ソフトバンクは情報革命を巻き起こすために日々奮闘しています。情報革命とは、なんでしょうか。かつてPCとインターネット→スマホ→IoT機器の普及が人々の暮らしを劇的に変えたように、将来AIがあらゆる産業を再定義すると言われています。AIの知性が人間を上回ることをシンギュラリティというらしいですが、そのシンギュラリティによって巻き起こる各産業のパラダイムシフトをソフトバンクが巻き起こしたい、もっと言えば、孫さんは「ソフトバンクはシンギュラリティが起こる時代に世界のど真ん中に君臨したい」と考えているようです。そうしたビジョンを成し遂げるために彼らがとっている戦略の要が、ソフトバンク•ビジョン•ファンド(SVF)です。彼らの投資戦略は、財閥、ある領域で事業を集中した戦略(Appleならサーバー、スマホ、アプリ、トヨタなら自動車に絞った戦略)とは全く異なり、あらゆる領域でナンバーワンとなりうる会社のオーナー(実際は、30%程度の持ち株会社)となり、それらの間でジョイントベンチャーを作ったり、業務提携したりするものと私はみています。例えば、スマホ用の半導体で圧倒的なシェアを誇るArmを筆頭に、半導体・AI、AI学習、ロボ、シェアリング、Finteck、クラウド、セキュリティ、IoT会社にAIを取り組むまでの流れを形作ろうと、将来有望な会社に投資しまくっているのです。AI用の半導体で世界ナンバーワンを取るためにソフトバンクは半導体業界の重鎮NVIDIAを買おうとしたことがあります。その際に孫さんの尽力もあり、ソフトバンクとNVIDIA両者の合意に至りましたが、残念ながら裁判所から否認されてしまい、結果的にソフトバンクはNVIDIAの一部株式を所有する至り、今はArmの成長戦略にシフトチェンジしている印象ですが、ちょっとここでは割愛します。SVFの規模は現時点で15兆円で、世界最大級のテクノロジー系ファンドとして世界中から注目されています。その資金源は、アリババへの投資で得た莫大な資産や、SVFのビジョンに魅了されたサウジアラビア(政府系ファンドであるPIF)、UAE(ムバダラ)、みなさんご存知のAppleなどによる投資です。私は当時、ソフトバンクを通信会社だと思い込んでいたので、ソフトバンクの孫さんが、サウジの皇子を口説き落としました、スティーブ・ジョブズを口説き落としましたとニュースで報じられているのをみて、え?なんで?そんなことできるの?と頭の中がハテナで満たされたことを覚えています。
 証券時代に、孫さんとお話しさせていただく貴重な機会があり、「ソフトバンクにとっての山頂とは何ですか?」と質問させていただたことがあります。孫さんは間髪入れずに「Appleの100倍を超えたい」とおっしゃっていました。鳥肌が立ったのを覚えています。当時、Appleは世界最大の時価総額を誇っており、今の時価総額はなんと417兆円です。日本の国家予算レベルですね。孫さんは、その100倍を目指しているので、ソフトバングループの時価総額を4京1700兆円にしようとしているということです。この数字をわかりやすく言えば、私はゲームが好きなので任天堂さんにお世話になりっぱなしなのですが、ソフトバンク株式を全部売れば、ゲーム界の世界的な重鎮でもある任天堂を4009個買うことができます、日本の主要な取引所(プライム+スタンダード)に上場している企業全部の45個分なので語弊を恐れずに言えば日本45個分、米国9個分買うことができます。仮に一企業がその規模を持つに至った場合、独禁法やら、安全保障上の理由やら、よく使われる政治的な理由で訴えられそうですが、孫さんの目はおおマジでしたし、たったの一代でソフトバンクグループ、ソフトバンクを合わせて時価総額国内2位を気づき上げたわけですから、凄みを感じました。
 一方で、現在のソフトバンク株式のマーケット評価は結構渋いです。世界を代表するようなプラットフォーマーとしての評価はなされずに、単なるファンドや通信会社としての値付けがなされており、PERだけどってみてもかなり低く、私はソフトバンクとは何も関係ない立場ですが、個人的に不満を感じています。
 また、後任問題も同様に渋いです。日本電産の永守さんが後継者をみつけ事業を引き継ぎいだことはご存知と思いますが、孫正義さんもいずれ引退しなければなりません。しかし後継者候補と騒がれた、Googleの上級副社長兼最高事業責任者のニケシュ・アローラさん、ドイチェバンクの輝かしい時代を築いたラジーブ・ミスラ、私が出会った中で一番優秀だなあと感じたゴールドマンの佐護さんもダメ。ソフトバンク内部で何が起きているのかわかりませんが、もしかして、この世に、孫さんの情報革命を引ぐことができる人なんて存在しないのでは、と考えてしまいます。

 ざっくりと書いただけですが、そんな感じで、孫さんが思い描くビジョン、そして現在までの実績は、割とマジでやばすぎて、訳が分からないのです。

 ちなみに、(さっきから適当な表現ですみません、わけのわからなさについては後で詳しく書きますが)他にもわけがわからんくらい凄い人は散見されます。以下は、私がこれまで活動の詳細を見てきた中で、すごいなあと思った人を、誠に勝手ながらマーケットからの評価の高さ×わけわからない度合で比較したものです。
 外銀・戦コンのMD<<<<<<<佐護勝紀さん<村上世彰さん<<<藤田晋さん<<<<<<<<孫正義さん<<<佐々木健二さん
 右に行けば行くほど、目標設定もアプローチもアートすぎて、彼らがおかれている状況はなんとなく理解できますが、「仮に私が〇〇だったら、こうするはずだ」という回答をズバッといえないのです。
 上記の軸の「マーケットからの評価」という項目を単に実績と置き換えてみれば、アカデミックの世界では、ユークリッドにリーマン多様体を埋め込んだジョン・ナッシュさん、幅広い研究分野の基礎でもあるガウスさんがいますし、スポーツの世界ではメッシがいます。世界の名門クラブのサッカー選手がメッシュと対峙した後に、「宇宙人、止める術がない」というようなことをいっていましたが、各界にわけのわからないくらい凄いひとは少なからず存在します。

 
2.多大な明晰
 一方で、ある程度の営業マンや(年齢や体力的な制約はありすので実現可能かは別として)並みのスポーツ選手であれば、そのレベルにたどり着くために何をすればいいかが大方想像がつきますし、彼らの今置かれた状況からどう好転できるかアドバイスもできます。それと比較して、孫さんの活動やプロサッカー選手がメッシと対峙したときに感じる非自明性は、私が彼らの取り組みについて、極めて明晰であるとは言うことは到底できないばかりか置かれた状況の一部でさえ把握することすらままならないので、何も有用な助言はおろか、私だったらこうするだろうという意見を持ったとしても、おそらく的外れなものかのだろうと考えます。
 ちなみにいうまでもありませんが、孫さん、ナッシュ、メッシはすべからく、実績が私たちが感覚的に持っている閾値を超えてしまっています。彼らが営業マンの売上のように比較されずに個として扱われることが多いのは、実績が閾値を超えすぎると比較対象がいなくなってしまうからです。かつて、Googleという会社が「検索エンジン」を発明し、世の中に発表しました。私は、技術よりも、PCが(いまもある意味そうですが)ただの計算機だった時代、みんながぽちぽち文字を打ったり、簡単な計算ソフトをプログラムしたり、ドット絵の二次元ゲームでぽちぽちしてる時に、「検索エンジンは便利じゃね?」と思いついたことが天才的だと思います。当然独創的すぎて誰も発想したことすらないことを実現した彼らにライバルなどいませんでしたし、長い間世界の時価総額ランキングトップ5の常連です。誰もわけがわからないので、ライバルすらいなかったのです。
 話を戻します。私が仮に孫正義さんだったとして、いかに情報革命をけん引するかと考えたときに直面する非自明性を、(なんとも計測しにくそうですが)①ほとんどの人にとってその領域の知見に関して非自明性であること、その非自明に内包された②閾値を超えた成果のミックスだと定義した場合、「無理難題」という記事でも触れたように、何よりもまず、非自明を明晰にする手段を考えるべきです。自明であることの中にも、マーケットの歪みによって、自明の②は世の中を探せばあるかもしれませんが、つまらないので割愛します。
 素晴らしい実績とは程遠いですが、単に私にとって非自明な対象に取り組んだ結果視界が広くなった事例を紹介します。(あの、素晴らしい実績を残したことがないことは、触れないでください!)。
 聞き慣れない単語も多いかと思いますが、多くの訴訟を体験してきました。債権回収等の簡単な手続きから、法人間における契約外の損害論、債権額351億円のコロナ蔓延由来の大型民事再生、契約・合意・期待権の成立が問われる立証案件、都・区・組合の許認可手続きの不正や法的な主体性の否定・公定力にかかわる問題など多岐にわたる論点について、時として専門家としての弁護士がほぼ存在しない領域に至るまで、自分たちの手を動かして研究したり、心象形成に配慮した細かい表現やストーリーを考えたり、場合によっては民事ではなく行政裁判の特殊性について熟考するも判決の速さに憤りを覚えたり、挙げ句の果てには最高裁の公平さに安堵したりするなどしてきました。どうやら行政裁判の一審、控訴審などは、裁判官が出世を視野に入れているがために、割と行政寄りの判決が出やすいらしいですね。
 2020年には、上述したように取引額の大きい取引先が、コロナ蔓延による業績悪化によって、351億円にわたる負債を処理するために民事再生手続きを選択しました。その結果(実は現在似たような案件を抱えていますが)、当社が保有していた債権がほぼ無価値になりました。取引先の民事再生による当社への影響はそんなに大きくなく、余裕を持って堪えられる程度でしたが、そうした一連の事象によって、当社と大手金融機関間の借入に係るコベナンツが発動されたことが副次的に起こりました。大手金融機関が当社に借入残高の一括返済を迫ってきたのです。なので、多額のキャッシュをかき集めざるをえなかったので、本当に、本当に大変でした。法人の倒産理由は、事業の良し悪しや通期の収益性よりも、資本政策の失敗となんらかのリスクが顕在化することが重ねておきることによる、キャッシュ不足がほとんどなのではないでしょうか。いわゆる資金繰りというやつで、本当に儲かっているかどうかは二の次の問題です。米国の企業は、資金調達市場が手厚いので何年も赤字が続きでも投資を継続するスタートアップが多数あります。このような危機は、リスクが顕在化した時にどのような影響があるかを把握できていても、副次的に何が起こりうるのか検討しきれていないことによる弊害によるとも考えられます。それこそ、世界恐慌を巻き起こしたサブプライムローン問題について、デフォルトリスクの高い個人を対象とした商品特性そのものに欠陥があることは大問題でしたが、何よりもまずローンを借り受けている人の生産性の成長率が、金利上昇額を一定期間下回ったことによることが直接的な原因なのだし、そういったデフォルト事情は法人個人問わず想像に難くありません。結論としては、どれほど儲かっていても、きちんとした複数のリスクシナリオ上に合成ポジションを構築するのが大切で、それらを考慮した資本政策を用意しておかなければなりません。
 ここまでを振り返ってみて、4年くらい前まではできなかったけれど、経済的・法的なリスク管理について考慮した上でしごとかできるようになったように思います。私たちが取り組んだ分野では、その道の専門家である弁護士を凌ぐ洞察を蓄えていき、弁護士は代理人として単に法的な手続きを行う主体に過ぎない扱いをせざるをえないことも増えてきました。つまり、目的ドリヴンな結果を期待する訴訟を行うにあたり、マニアックな法的手続きや訴訟における弁護士業界の常識はしばしば結果を期待するだけのアクションでしかないケースもあり、結果に直結する訴訟戦略をある程度構築できるようになったし、加えて、裁判外の交渉や裁判前に経済的メリットを得るためのポジショニングなど弁護士の守備範囲を超えたオプションを幅広に持つことができるようになったということです。本気で取り組んだこそ、奥深い世界が見えてくることがあるのです。


3.ごくわずかな人しか見ることのできない豊沃な世界
 裁判なんてくそつまらない話はするなという声が聞こえてきそうですが、多少はその奥深さを感じていただけたならうれしいです。今の私は、法の研究者がそれに没頭する理由もなんとなくわかるように思います。以前、仮想世界の第三者の対抗要件なんかクソくだらねえとかいってしまいすみませんでした。
 一方で、裁判のニュースや学校でならった数式といった断片的な情報から、その魅力に気づくことができないのはありていにいってかなり普通のことです。私も多くの人と同じように、いまだに数式に魅力を混じたことはありません。しかし、裁判の事例と同様に、稀にその奥底に豊沃な世界を感じ取ることがあります。それらは趣味の世界だけではありません。数学のようなアカデミック世界、つまらないと感じている仕事の奥底にも存在するかもしれませんが、往々にしてめちゃくちゃくわしくなってアイディアが湧いてきてからだからこそ感じる魅力があることは肌感覚で理解しています。
 私も今魅了され一生懸命取り組んでいることがありますが、孫さんが、手を尽くす価値のあるロマンのある対象を見つけたように、みんなもお宝を特定すれば、より充実した人生を送れるのではないかとも思っています。
 そのためには、自分探しの旅に出るのがいいかもしれません。こう発言すると「何を間抜けなことをいっているか」と批判されそうですね。自分探しの旅は、大学生の迷走と捉えられがちですが、かなりマジです。自分探しの旅というのは、立地的に移動することだけではなく、今取り組んでいる対象をあらゆる側面から見直してみたり、やったことのないことを本気で試してみたりするということです。そして、それらの表面をなめるだけでなく、ちゃんとかじることです。これも、世界トップ5%以内に入るくらいにかじることが大事です。そこまでいくと、ほぼ極めているわけですが、そのレベルになるまでは「あ、これ違うな」と思っても続けることです。それでも「ちがうな」と思えば、次の対象に移る、そしてまた世界トップ5%くらいになるまでかじる。その繰り返しです。そうしていれば、いつのまにか自身にとって光り輝く仕事や趣味が見つかるかもしれませんし、仮に、閾値を超えて社会的に評価されるなど、何かしらの利益を享受できると期待できるならば、あなたも孫正義の仲間入りのスタートラインに立ったということです。

4.非自明を暗中模索する
 あなたが仮に、孫正義さんのように、非自明さの中に、評価されうる機会を特定できたとして、ではどのようにそれらを明晰なこととし、実績として回収できるでしょうか。もう少しだけ踏み込んでみましょう。
 非自明性について。非自明には、グラデーションがあります。例えばこんな感じです。A.死ぬほど頑張れば全解決できる95%+死ぬほど頑張ってもわけのわからない5%、B.死ぬほど頑張ってもわけのわならない95%+死ぬほど頑張れば全解決できる5%というA~Bのグラデーションがあると仮定して、今回のテーマである非自明性のなかにおける多大な成果は、Bに振り切ったところにあるという話をしてみます。わけがわからないというのは、死ぬほど優秀な人が死ぬほど努力しても超えられないと感じさせるような壁のことです。あなたが営業マンだとして、毎月300万円程度の個人目標がいきなり300億円にされた時を考えてみてください。99.9999%の営業マンはどうしようもなく何もできずに達成できないはずです。上記でふれたように、多くのサラリーマンや事業主が生み出す成果や並のスポーツ選手の活躍はAパターンに分類されますが、Aパターンにはどういう経路を辿れば成し遂げることができるのか、その道のりを思いつくことができますし、今思いつかなくても、どうすれば思いつくのかロジックを組み立てることができるという特徴があります。一方で、ガチ中のガチすぎる閾値を超えまくっている実績を得たい場合には、その過程はBパターンに分類されます。Bパターンでは、上述したような壁が高すぎてその道程を具体的に想像することすら困難という特徴があります(Bパターンなのに、社会的に評価されないだろうことは、本人が満足しているならいいですが、自己満でしかないです。)。
 Bの極地で成果物を収穫するためには、95%の非自明性をクリアなものにする必要があります。例えば、Bの極地は、あなたがブロックチェーン素人だとして、今から世界5%くらいくらい詳しく調べるのみならず、事業の世界で言えば、まだ未知で誰も成し遂げたことのないようなサービスを提供し、世界中のライバルを打ち負かし、自らの手で世界を作っていくくらいのレベルです。ある事業領域で全世界中シェア1位をとるためのアプローチは非自明なものなので、単にその業界について熟知したところで、目的にとって自明になったとは言えないのです。Bパターンの世界で自明性を手に入れるためには、前回のブログでも記述したように、暗中模索が必要です。わざわざ暗中模索と書いたということは、Bパターンにおいては成功の方程式はなく、成果は極めて散発的に表れるということを言いたいのです。裏を返せば、個別具体的な事例を分析や明らかになっている知識を覚えたり、こうすればうまくいくという方程式のを勉強したりすることは、Bパターンを攻略するにあたり、結果を期待するだけのプラクティスでしかなく、アナロジー以外ではあまり意味がないかもしれないということです。孫正義さんの卓越した結果を見ることができても、私たちにとってそこに至る95%がわけがわからないのですから、アプローチも独創的なものになるからです。Bパターン攻略には、自分が個別具体的な対象のために手を尽くし、考えつくすしかないのです。例えば、あなたが孫さんになったとして、孫さんのビジョンを達成しようと思えば、Aパターンで通用したはずの正しい手順を踏んでも前に進まないはずで、Bパターンではその攻略方法を教科書にするくらいの能力がなければ目標不達で終わるのです。ハンターハンターの世界では、ドン•スリークスが暗黒大陸の本を出していますが、暗黒大陸以外の皆が暮らしている世界の知識をもって暗黒大陸を語ることができないのと同様です。
 ただし、AとBのアプローチが全く異なるとも思いません。非自明が多いか少ないかだけの話で、調べても誰に聞いてもわからないことを取り組むときに誰もが行うように、
 ①手始めに、3時間くらい何も調べずに、無理にでも妄想で原理的に教科書を書き、網掛けにする。
 ②網を試行錯誤しながら引っ張る。
という手順を踏んでいることは同じなのです。そのうえで、Aには十分条件、Bに必要条件の要素をあえて挙げるとすれば、「無理難題を回収する」で書いた通り、95%のわけのわからなさをサッと理解してしまうような洞察としか言いようがありません。繰り返しになりますが、Aは教科書通りに進めれば成功し、Bでは成果を刈り取るための教科書をいちから作るようなものです。そのあたりは、当然話がアートすぎて体系化できないので、最後に事例を少し触れることとして、今回はAの5%程度の非自明を明晰なものにするための流れについて、事例を交えて書いてみようと思います。例えば、Aパターンであれば、こんなやり方があると考えます。
 身近な事例で説明してみます。一般的に、営業マンのノルマは業種にもよりますが、月々300-500万円くらいでしょうか。そんななか数千万、数億と多大な成果を積み上げる営業マンは何が違うのでしょうか。売れない営業マンから見れば、トップ営業マンの日々の行動自体は他の営業マンと大きな差異は見られず、電話をかけたり、一見すると変わり映えのない提案を行っていたりするように見えます。しかし、おそらくトップ営業マンは、みんなと同じようなことをしているように見えても、その行動はかなり異質な性質を含んでいると考えるのは、あながち間違いではないと考えます。
 私も昔営業マンをやっていたのですが、ほかのみんなと変わり映えしないフローで営業していたと思います。
1.リスト制作
2.アポ取り
3.初回面談
4.提案
5.契約
 上記のフローを踏襲しつつも、契約を獲得するための試行錯誤の回数は意図的にTO DOリストに付け加えていました。それによって得た洞察量が大切だと思っています。試行錯誤というのは営業に出向く回数のことではなく、大きな成果を上げたいと目標を掲げ、そのためのアプローチを死ぬほど考え、実際に行動し、死ぬほど修正したということです。何を試行錯誤するのかというと、営業の場合突飛なアナロジーは不要で、シンプルに事細かに分解された目標数字とそれに直結する行動を数万パターン考えるだけです。例えば、実際に顧客候補にアプローチした際にアポが取れる確率、初回面談が次回の提案につながる確率、提案が成約に至る確率などをワンアクション毎にカウントし、1日の終わりに、それぞれの事細かな目標数値に対してどれだけ近づくことができたかを評価していたのです。例えば、AというリストとBというリストで結果に明確な数値の違いがあれば、次回以降は、Aというリストの特徴(業種、ジャンル、規模間、立地、従業員数など)をとらえたリストを増加させることができます。当然両方のリストで、アポ件数が変わらなければ、さらに改良したリストをいくらか用意します。また、アポ取りのためのスクリプトを複数用意したとして、成功確率はそれぞれどの程度違うかをカウントします。アポ取りの過程で受付突破という難題がありますが、「この前〇〇の会で同席させていただいたものですが、社長います?」がいいのか、「御社に魅力的なご提案を!」がいいのか、「は、知り合いなんだけど、」を突き通すのか、何百パターン、何千パターンも思いつくことができるように思いますが、それぞれどのくらいの成功確率なのか把握し、一番良いアプローチを特定したいのです。当然ですが、面談、提案も同様のことを行います。面談から提案につながる確率が20%くらいしかない人が35%に上げたい場合は、1日の営業時間の終わりにこういうことを行います。3分間、何が数値目標を達成できなかった要因なのかという課題を15案書き出すのです。なんとしても気合いで3分で書き切ります。その後、書き連ねた課題を評価します。大体の場合時間がないので、緊急性、難易度、結果に直結しそうか期待できるが直結するかわからないか、というざっくりレベルで◎〜×と書くだけでいいかと思います。そのようにして、解決すべき課題を特定できれば、それぞれの課題ごとに15以上の解決策をこれまた3分で書き出します。時間的にかなりきついですが、頑張って書き切ります。そして、それぞれの解決策に対してどの程度の効果が見込めそうか、上述のように評価します。このように暫定的に特定した効果のありそうな行動を、早速次の日に試します。これを毎日繰り返すのです。
 蛇足ですが、アポが取れたとして、初回の雑談から提案時に一気に熱が冷めてしまい次回のアポが取れないという課題があったとして、どうしても有用なアイディアが思いつかなければ、営業成績の良い人に頼み込んで同席させてもらうのもいいとおもいます。大体この場合の課題は、雑談から提案までに流れをブチ切りしていることが原因なので、ブリッジの練習をすれば大きく提案までの確率は上がると思いますが、そうしたアイディを自分で発見し、理解することが重要だと思います。
 最終的に私の場合は、超大物一本釣り戦略というくそださい名前の営業プランを採用していました。つまり◯◯の業界のなかでも〇〇というポジションにいる会社×会社規模ごとにリストをつくり、それらリストごとに百パー突き刺さるだろうと確信できるようなアイディアを、リストごとに最低5本は用意しておくという作戦を採用しました。手間がかかる分、超大物だけをターゲットにしていました。ほんとにここに行きつくまでは大変でした。例えば、不動産会社を、デベ、仲介、管理という種別で分類してリストを作る場合、不動産デベや仲介のオーナー社長に対しては、不動産に興味ある人を大量に獲得する方法として不動産特定共同事業×匿名組合(相続している会社に対しては任意組合)×ワンロット100~10,000円というアイディアは、実際に1回のファンド生成で、ファンドのサイズにもよりますが、300人~500人程度の見込み顧客を獲得することができますし、何より儲かるのです。異次元運用プランで事業利益を200%くらい改善できそうなアイディアに、投資家還元プランを付け加え、顧客誘導を促したり、デベが投下資本5億に対して利益が5000万円と見込んで商品作りをしている場合には、2億くらい儲かるプランを持っていき採用してもらったりするなど、確実にそのオーナー社長が飛びついてくるネタを何本も用意しておいて、そこを間口にしていました。こうしたプランは、証券マンならよくやることですが、事業の分析を何度も何度も繰り返しているうちにおのずと思いつくものだと思います。不動産用だけではなく、エネルギー関連用、人材紹介会社用など、たくさんのリストを作りました。また、バーター化しないための作戦とか、金を引っ張り出す方法とか、いろいろかなり考えていたので気になる方は聞いてもらえればと思いますが、上記のフローは絶対にまあいいやてへぺろで絶やしてはならないです。24時間間髪入れずにやり続けましょう。
 上述の例では、試行錯誤によって一つ一つの流れを逐一点検した結果、誰も試したことのないアイディアが見つかったり、その結果として閾値を超えた成果を出すことができた実体験として、なんとなく体験していただければと書いたものです。しかし、この事例は、ほとんどのことは調べたり先輩の話を聞けば解決し、若干の創意工夫が必要くらいの難易度なので、Aパターンですね。このブログで何度も言及してきた暗中模索というのはこういう雰囲気だということを感じ取ってもらえれば大丈夫です。Bパターンでも同様に、Bパターンのうちにある多大な成果を手にするためには、まずは何からも学ばずに死ぬほど考えて、手を動かし、また考えるという連続が必要です。繰り返しになりますが、Bパターンでは、多大な明晰さを得るための洞察がより必要になってきます。

 

5.優れた洞察は魔法のような思いつき
 最後に、繰り返し触れてきた洞察についてもう少し深掘りしてみます。過去の記事でも触れたことがあるので、お時間ある方は「無理難題」をぜひ読んでください。
 優れた洞察とは、魔法のような思いつきと言ったほうがいいかもしれません。その思いつきさえあれば、真っ暗でわけのわからなかったゴールへの道のりが途端に照らされるのです。
 暗号資産の価値が大幅に上昇したことをきっかけに、ブロックチェーンのスマートコントラクトでPvP決済を行う際にかかるコスト、つまりETHのガスフィーの高騰が問題になっていました。ETHチェーンで承認を受けるためには、大きなフィーを払わなければならなかったのです。ブロックチェーンを使って契約・決済のコストとオフチェーンで契約・決済する際のそれを比較した場合、ブロックチェーンを利用すれば単にコストが上がるので、ガスフィー問題は割とブロックチェーン事業者にとって死活問題でした。今でこそ、Polygonのようなレイヤー2やSolana、Sui、アバランチがイーサを補完しましたし、特にSolanaはスケーリングの問題をパスしたっぽいのですが、当時はERC20や1155といった規格で作られたサービスを使う際の高いガスフィーを、サービス利用者は受け入れなければなりませんでした。これに対して、法律上必要な項目を各地域で個別に特定し、それらにあった情報のみをブロックチェーン上にプログラムするようにすれば、ガスフィーが1/22程度に収まることに気づいたのです。営業の例で言えば、細分化されたマーケットのニーズ特定と商品設計という一連の作業を営業マン単位に落とし込むことによって、大物を複数人開拓することができ、誰でも思いつきそうなアイディアでしたが、月間5,000万円そこそこの取引が、1年半程度で一時500億円を超えることもありました。そのアイディアを思いつくまでの経緯がしんどいかったですが、AIマーカレスモーションキャプチャー事業はそもそもそれを思いついた時点で、売上を複数年上昇させ続けるだけで上場できるし、ベースシナリオで3000億程度の時価総額は余裕だと思っています。そして、そうした事業を遥かに凌ぐ、これまでの延長にないような多大な成果として、ブロックチェーン事業に取り組んでいます。まだまだ私はBパターンの極致にある事業を何も成し遂げていませんが、孫正義さんや佐々木健二さんのようになりたいと思っています。
 一方で、Bパターンを打開するような神がかった思い付き(洞察)は、狙ってでてくるようなものではありません。例えば、Bパターンの例として「営業ノルマを100倍に引き上げます」と上司に言われたとして、すぐに適切なアクションを思いつく人なんかいないと思うのです。ほとんどの方がその目標に歩み寄ることすらできないでしょう。2018年の暖かい季節だったと思いますが、小林秀雄賞を受賞された森田さんにお会いするために千駄木にお邪魔しました。その帰りに近くの喫茶店に立ち寄って、なんとなくTwitterを開きぼんやりとツイートを見ていたところ、たまたまコムデギャルソンから独立された小石さんという方が、森田さんと交友があり、二人でやり取りしているのを見かけました。なぜだかわかりませんが、彼の文体が単に好きで、少しさかのぼって読んでみると、ファッションの有様を見たこともないアプローチで分析している斬新さがありました。その後、たまにリプライでやりとりさせていただく機会も増え、どんな内容のやり取りだったかすっかり忘れてしまいましたが、私が彼のツイートにコメントしたことをきっかけに、小石さんから「いつもツイート拝見しています。もし機会があればお話しする機会が欲しいです。」というような内容のDMを受け取ったことを覚えています。彼は、デザイナーや作家などアーティストの活動を阻む言語や資金等の壁があり、それをぶち壊すことができれぼ莫大なエネルギーが社会に流れ込むはずだというようなことをおっしゃっていたように記憶しています。私は金融関連のことばかり呟いていたので、そうした活動に係る金融面の話がしたいと。この系譜で結果的に現在ブロックチェーンに取り組んでいるわけです。そんな彼が、もう閲覧できないのですが、FREE MAGAZINEというウェブサイトに「新しい」という概念について、抽象度の高いエッセイを寄稿していました。彼にとって、「新しさとは、周回遅れのデッドヒートから生まれてくるものなのかもしれない」ということが綴られたエッセイだったと思いますが、私はそのエッセイを読んで、新しさは最先端から生まれてくるとは限らないというように理解しました。あるいは、メインストリームだけではなく辺境から新しさが顕現する可能性も意図し書かれたようにも捉えることごできます。さらに拡大解釈してみるならば、新しさの発生源だけではなく、そのタイミングも、往往にして予測不能なものかもしれないなと考えています。
 ここで「虎が木の周りをぐるぐると高速回転していると、突然バターになる。」という話をしてみようと思います。この話は、1988年に絶版した「ちびくろサンボ」という絵本にでてくる逸話です。思考を働かせすぎると脳みそが溶けたような気分になるという状態を意図して描かれたシーンらしいのですが、私はこれを読み、「ファンタジーの世界では、高速で動き回ると、物理法則を跳躍して、異質化することがある。」という感想を持ちました。間違いなくミスリーディングですが、ミスリーディングの中に大きな示唆があると思えるのです。筑波大学准教授の落合陽一さんとモリス・バーマンの言葉を借りれば、錬金術という仕組みのわからない技術?の時代が終焉を迎え、科学技術の発展により社会の仕組みがより明らかになりました。そして、この先は科学技術が進歩しすぎてしまい社会の中身がよくわからなくなってしまうのではないかということです。技術が進みすぎて誰も仕組みが理解できない社会は、錬金術による物質の生成理論がブラックボックスであったという側面と類似しているということです。小学生並みの表現で申し訳ないのですが、スピーカーや黒電話の仕組みを理解し作ることができても、スマホでなぜYoutubeを見ることができるのかを理解し、素材から再構築できる人はほとんどいないのではないかと思います。このブログの文脈で言えば、Bパターンの領域で戦っている孫正義さんが、どうしてその課題を解決できるのかという合理的な理由は一切わからなことと同じようなことです。孫正義さんが取り組む対象は、多くの人が理屈がわかったうえで取り組むAパターンとは事情が異なり、つまり資本が潤沢だとか、戦略のロジが通っているだとか、それぞれの分野に精通した人員が揃っているだとか、事業の運営を考えるうえで検討することの多い要素だけではまったくもって戦えないないほどに非自明性が満ちているのです。優れた洞察とは、そうした非自明性に多大な明晰さを与える一方で、いつどこで思いつくかわからないものです。しかし、何かしらの活動にデッドヒート、例えば、試行錯誤とスクラッチが過度に行き過ぎた状態にあるときに、虎が高速回転しすぎてバターになるように、極めて散発的に思いついてしまうものだと思っています。

自己中心性と夢

昔、宮崎駿の「風立ちぬ」という作品をみた。ある夜、木々に囲まれた邸宅の和室に敷かれた布団に、肺結核を患った菜穂子が横になっていた。主人公であり彼女の夫でもある堀越二郎はその横であぐらをかき、熱心に仕事に打ち込んでいた。菜穂子は具合が悪くて横になりながらも二郎に声をかけ、二郎は「きれいだよ」と返答するが、一瞥すらすることなく、飛行機の図面を描く手を止めることもない。作中における彼の生き方は一様に「うつくしい飛行機を設計する」ということに徹底して向けられていることが、こうしたシーンの連なりで表現されていた。続くシーンでは、肺結核に苦しむ菜穂子の横で、二郎が喫煙する映像が映し出される。喫煙自体は二人の間では了解されていたこととはいえ、多くの視聴者は、菜穂子が二郎にとって「都合のいい女」という印象を受けて不快に感じたようだ。こうした二郎の態度については、婚礼の仲人であり上司でもある黒川が「君のは愛情ではなくエゴイズムじゃないのか」と視聴者を代弁して批評していたが、相対する二郎は神妙な表情を浮かべただけで、葛藤するシーンは作中で描かれていない。

 

このような二郎の自己中心性は、前述したように夢をまっすぐに追い求める姿の一部として描かれていたように思う。例えば、妹の加代と笹取りにいくという約束をすっかり忘れてしまった二郎は、加代に叱責されることになるが、反省する素振りはごめんという謝罪のみで、次の約束を取り付けるわけでもなく、すぐに理想的な飛行機について思いを巡らせる。仕事の帰路で腹を空かせている子どもを見つけた二郎は、シベリアというカステラのような洋菓子を与えようとするが、子どもたちに拒否され、同僚の本庄に「偽善だ」と指摘されてしまう。本庄は「飛行機なぞを設計する予算があれば、日本中の飢えた子どもたちに菓子を食わせてやれるだろう」と続け、それに対して二郎は「矛盾だ」と反駁して見せるが、その後のシーンにおいてそうした議論が持ち出されることはなく、次のカットでは二人がドイツの最新鋭の飛行機を見学する場面が唐突として画面に映し出される。二郎の人生は、どこまで行ってもうつくしい飛行機をつくるためであり、他者が介在する余地はない。ラストシーンでは、目標を成し遂げたであろう二郎の夢に、すでに肺結核で亡くなってしまった菜穂子を登場させ、「あなた、生きて」というセリフを吐かせたうえで、涙し、一つの美しい思い出として昇華してしまう。そうした薄情さは、幼少期の二郎がいじめられている子どもを果敢に救ったり、自身の作る飛行機が殺戮のために生み出されることを十分に理解した上で設計に携わったりするなど道徳感を持ち合わせているという描写によって、殊更に強調されていると考える。

 

当時の僕は、多くの人が持ったであろう感想のように「二郎は素晴らしい飛行機を作ったかもしれないが、他者を真に愛することなどできなかった」というニヒリズムのような結論を導くことはなかった。二郎にとっての菜穂子が都合のいい女だと批判されているのと同様に、病弱な菜穂子にとっての二郎もまた都合のいい男だったのだから、二郎の配慮不足なところは指摘されてしかるべきだとしても、むしろ2人はいい関係だったのではないか、現実そんなもんじゃね?と思ったりしていた。今では、こうした視野の狭い考えは少し違うかもしれないなと思うし、映画の冒頭で二郎が八百屋の出っ歯のおやじとすれ違ったシーンに違和感を覚えることができるようになった。出っ歯で鋭い眼光をもつ親父は、映画の始まりできっとした表情で段差に座り込んでいた。おそらくさまざまな経験によって刻まれたであろう深い皺をさらに強調させるかのようなしかめっつらを浮かべていた。それほどまでに特徴的な風貌をした八百屋の親父を、二郎がまったく気に止めることもなく通り過ぎていくシーンを見て、思い返せば二郎と菜穂子の関係について感じたように、人間の夢や思考は完全に交わることのないのだろうということを理解するだけだった。それにもかかわらず映画の移りゆく激動に魅せられたり、挙げ句の果てには菜穂子の訃報に号泣したりして、知らず知らずのうちに、そのような矛盾をそっと頭の隅に追いやってしまっていた。こういう感じだったので、当時はサラリーマン人生の頂点を目指したいと奮闘しているだけで毎日が充実していたのだと思う。

 

最近心境の変化があった。それは、風立ちぬを見て、菜穂子や加代がかわいそうだという感情について考えてみるようになったというよりも(最初からかわいそうだとは思っていた)、たとえばタコに変身したとして、10本の手足で触れるものの味を知覚したり、局所的な造形を感じ取ることはできるようになったとしても、その情報を統合することはできていなかったということに、気づいたということだ。つまり、目や鼻や口や脳といったあらゆる認知機能が、ある種リアルな世界を感知していながらも、それらは自身の経験則による認知であるだけで、本質的に他者を含んだ世界をしっかりと脳内に構築しようとしていないことに、気づいたということなのかもしれない。あるいは、思考がタコ化していたので、いわば「自律的に」二郎や菜穂子の自己中心性を理解した上で、彼らの感情について多少なりとも思いをめぐらせることはあったとしても、結論として「理解したつもりになってはならない」という考えに留まり、人を真正面から見ようとしてこなかっただけなのかもしれないが、どうなのだろうか。わからないけれど、 そうした心境の変化によって、完全とはいえないまでも、自分が取り組んでいる以外のことに注意を向ける姿勢をとることができるようになったのではないかと思う。

 

大切だと思うこと、大切にできるということ。事業、家族や友人、人生のバッファ、慈善について。

(つづく)

命日

 

あの頃のぼくは

不器用でまだらな木漏れ日にとまどいながら

人生を超える一瞬を求めていた

 

雲に生命は消えたから

価値は隠されて

甘ったるい風が頬を過ぎていく

 

コーヒーの缶を指先で支えながら

熱が和らぐのを待っていた

 

時が流れても熱はひかなかったから

そっと息を吹きかけた

 

ほのかに漂う湯気は

あやふやに立ちのぼり

落ちてきた陽光に渦巻き、霧散した

 

人生は短く、君のものだ

ポートフォリオの作り方

 BridgeWateのレイ・ダリオ「最も重要なことは資産配分戦略を持つこと」、Yale大学基金「投資成果の要因は資産配分が86%を占める」など、名だたる投資家たちが指摘する通り、資産配分は運用を行うにあたって極めて重要な要素です。

 

 そもそも、資産価格はなぜ上昇するのでしょうか。短期的にはテクニカル的要因、長期的にはファンダメンタルズが資産価格を形成します。投資戦略によって重要なファクターは異なるものなので、詳細は後述します。ファンダメンタルズのなかでも、とりわけ先進国の実質GDP成長率は今後どのような見通しでしょうか。国際通貨基金(IMF)によれば、2019年、2020年におけるグローバル経済成長率は、それぞれ3.5%、3.6%です。直近では英国を除くG7は潜在成長率以上の成長をする見込みです。また、英プライスウォーターハウスクーパースは、2042年までに世界のGDPは倍増する調査結果を出しています。

 

 資産価格の形成要因である、「世界の経済成長」は今後も続く見通しであるのにもかかわらず、負け越す投資家が続出しています。なぜでしょうか。理由は大きく二つに集約されると考えています。

 ① 個別リスクに晒されている

  • 「成長の見込まれる会社を持っている」:個別企業に投資している場合、投資先の業績が悪化すれば下落します。
  • 「複数のセクターの株式を幅広く所有している」:セクター・国に対するバランスをとっている場合でも、株式市場全体に連動します。
  • 国債と株式をバランスよく持っている」:ゴルディロック等など株式と国債が同じ方向に動いたり、リスク量に対するバランスが偏っているケースでは、株式の下落によってポートフォリオ全体が大きく下げる。
  • 「ハイパフォーマンスを継続する大学基金を真似している」:ハーバード大学やイェール大学のオルタナティブ戦略は往々にしてダウンサイドに弱く、キャッシュが潤沢である必要がある。

 

 ② 値動きが大きい。

  • リスク資産は往々にして値動きが大きいです。例えば、株式が20%下落した場合、25%上昇しなければ同じ期間で投資金額を取り戻すことはできません。また、こうした値動きは、ヘッジファンドの高速取引が増加して高まりやすい傾向です。

 

上記①②の状況に陥ってしまう背景には、偏った資産配分があることが多いです。また、偏った資産配分が発生してしまう背景には、まず、「どれだけ複雑なモデルを組んでも将来は読めないということを忘れていること」が挙げられます。実際に、あらゆる金融のテクノロジーを駆使して予測された金利は、ほとんど当たらないのにもかかわらず、「FRBは2019年に利上げを行わない」という中心的なシナリオに強い自信を持つ方も多くいます。そして、複数のシナリオを考慮せず過去のデータだけを参考にするなど、ポートフォリオの構築にとって大切なプロセスを省略してしまうことによる弊害が考えられます。

 

 ①②を避けるためには、適切なポートフォリオの構築プロセスを踏襲することが有効だと考えています。正しく分散投資を実行すれば、(A)リスク要因を分散させ、(B)値動きを抑えるという分散効果を発揮しながら、経済成長等によるリターンの確実性を高めることができるからです。

 

 具体的な(A)リスクの分散、(B)値動きの抑制といった分散効果を発揮させるコツは、ポートフォリオ資産を増やすよりも、値動きの向きが異なる資産を、値動きの大きさと比較しながら組み合わせることです。その値動きの方向性と大きさを表す代表的な指標は、それぞれ相関係数標準偏差です。

 

  • 相関係数は、資産の値動きの向きを表し、-1~1の間の数値をとります。複数の資産の値動きの「方向性」が同じならば相関係数が1、関連性がないならば0、逆に動くならば-1に近くなります。例えば、日本と先進国株式の相関係数は0.8です。世界株式バランスファンドに投資すれば分散投資の効果を期待できるのではないかといった話を聞くことがありますが、実際には分散しているつもりでも上記にあげた分散効果はあまり発揮できていません。相場全体によって先進国の株式が下がれば日本株式も同様に下げることが多いからです。一方で、日本株式と国債相関係数は-0.32ですから分散効果を期待できます。
  • 標準偏差は、資産の値動きの「大きさ」を表します。年率標準偏差国債2.1%、日本株式18.7%です。相対的に国債に対する日本株式の値動きが大きいということです。ですから、日本株式と国債を持てば十分なのかと問われればそうではありません。例えば、日本株式50:国債50の割合で投資すると、日本株式が下落したときに国債ではその下落を埋められるほどのリターンは埋めることができません。これが標準偏差です。

 

重要なことは、相関係数の小さな資産クラスを選び取り、標準偏差の大きさを比較しながら保有割合を調整することです。その結果として、別々の資産がお互いに値動きを相殺し合いながら、米中経済の成長を着実に刈り取っていくのです。

 

 分散投資によって、どの程度値動きが抑えられるでしょうか。分散投資のイメージは、複数資産の合成ポジションといったほうがわかりやすいでしょうか。例えば、日本株式50:金50という割合で投資した場合、 標準偏差はそれぞれ18.7%、17.2%ですので、標準偏差の平均は17.9%ですが、全体の標準偏差は13.9%まで低下します。日本株と金の標準偏差の平均よりも4%の値動きが抑えられるということです。これは、お互いの資産が、それぞれの値動きを相殺しているから発生する効果です。また、どれほどの値動きが抑えられるかは、資産クラス間の相関係数の低さによって決まります。ですから、グローバル株式などといって日本株と先進国株式など強い相関を持つ資産に投資した場合はあまり値動きが抑えられないということになります。なお、一般的な相関係数は過去のデータから計算されたものであるため、後述するように、リスクシナリオをもとに調整することが必要です。

 

 こうした考え方を突き詰めていくと、リスク許容度に対して、どれほどのリターンを得ることができるかという問いが最終目的地のように思えます。リスク許容度とは、投資の収益がどれほどマイナスになっても受け入れることができるのかを指す度合で、基準は5%程度です。そして、そのリスク許容度の範囲内で、リスク1%に対して得られるリターンを最大化する戦略を立てるのです。話を分かりやすくするため、「1%のリスクに対して、リターンを最大化する方法」を探ります。例えば、銀行とのお付き合いで、国債に全資産を投資する場合は、リターン1.7%、リスク2.0%ですので 1.7÷2=1リスクあたりのリターンは0.85%です。国債90:日本株10の場合は、リターン2.5%、リスク2.1%ですので、1リスクあたりのリターンは1.19%です。 後者の方が、投資効率としては優れているということです。全ての資産の組み合わせで、この数値を少しずつずらしながら最適な配分比率を決定します。



 上記を踏まえて、資産配分を決定するには、どのような手順をとればいいでしょうか。それは資産配分の種類によって異なりますが、大きく分けて3つあります。

 ① 戦術的資産配分

 ② 戦略的資産配分

 ③ ゴールに基づく資産配分

 

①戦術的資産配分は、6ヶ月など短期的な投資期間で、目標収益の獲得を狙います。相関係数を利用することはあまりなく、資産クラスの予測リスク・リターンを独立して計算してポジションを取ります。

②と③は相対的に長期的な投資期間で、目標収益の獲得を狙います。資産クラス間の標準偏差相関係数を考慮しながら、合成ポジションにおけるリスク・リターンのデータに基づいて分散を行います。②と③の違いは、後者は複数のタイムホライズン、運用目標、リスク、資金需要等を考慮に入れている点で、「個人はユニークで、それぞれ異なる」という視座に立っていることです。ほとんどの顧客は複数の目標を持っていたり、急に目標ができたり、古い目標が修正されたりするため、複数のタイムホライズンの中で、それぞれのリスク、資金の需要を持っているため、それに合わせて資産配分や商品の選定を調整します。どの資産配分の方法がいいのかについては、大幅な下落・アルファを創出できる等の局面や、投資家の目的・リスク許容度等によって異なるので一概に「これがベストである」とは言えませんが、顧客との信頼関係や要望に応じて、コア戦略として②と③を選び、大幅な下落局面においてサテライト的に①を実行することが多いです。



 具体的な手順です。基本的には、リスク許容度のもとで最大のリターンを目指します。そのために、投資手法に見合ったファクターを選定し、複数のリスクシナリオを検討したのちに資産配分等を決定します。

 

①目的の確認

 顧客に、やりたいことや今後訪れるプランについて確認します。多くの型は、ライフステージ毎に資金管理手法を変えたほうがいいかもしれません。やりたいことにキャッシュを使う予定があったり、年齢を重ねるにつれて大きなリスクを取ることができなくなったり、相続の準備を開始したりするなど、人それぞれお金を使う時期、投資スタンスなどが異なるからです。例えば、30代後半までは流動性を確保し、結婚や出産、教育、住宅の購入などの臨時出費の資金を確保ししつつも、貯蓄、積極的な運用等によって少しずつ老後への備えを行います。キャリアの後半では、流動性の確保もさることながら、積極的な運用によって老後への備えへと比重を移しつつ、少しづつ生保や組織確立等によって資産承継の準備をします。退職後は年齢ごとにより細かく設定します。まずは、生活や趣味の資金を中心に流動性の確保、安定的な運用による老後への備え、事業承継や生前贈与などの資産承継の準備を緻密に始めます。特に、争続や浪費人への相続をしたくない場合は、それを目的とした明確な準備が必要です。その他にも、年齢によるリスク許容度や資金需要の変化に応じて、定期預金の比率を高めたり、デュレーションの短い債券を保有したり、株式保有割合などを組み替えたりします。流動性の確保では、2年以内の資金は定期預金やMRF、5年以内の資金は低リスク低リターン、それ以上の資金はPFなどに充当することが多いです。異なるレイヤーですが、若い方は7年以上の投資期間を設定することが、投資効率の観点で優位に立つことができます。例えば、株式と債券を50:50で投資した場合、1年目の債券に対する株式の標準偏差が13.9%であることと比較して、7年目以降に債券に対する株式の標準偏差が7年目以降に1.8%程度に減少します。12%程度リスクを抑えることができることを意味します。リスク指標であるCVaR(期待ショートフォール)は、1年目の債券に対する株式の数値が-35.8%であることと比較して、7年目以降に債券に対する株式の数値は-5%程度に減少します。ですから、長期で運用できる資産があるケースでは、長期的なスパンに立った投資を推奨しています。たとえば、70代前半までは長期のタイムホライズンを念頭に株式比率を高めに設定し、70代中盤をめどに債券比率を高めていく手法が考えられます。

 

②リスク許容度の確認

 必ず、リスク許容度を超えない範囲でリターンを最大化する戦略を作ります。  

リスク許容度は、ポートフォリオ全体の標準偏差の目標で、最大でどの程度の損失を受け入れることができるかの度合いです。基本的なリスク5%から、年齢、ご家族、資産、年収や趣味などの項目からなくなってはならない金額や、経験、投資スタンス等を何度も確認しながら調整します。

リスク許容度が5%ならば、席分布上68%の確率でリターン-5%~10%に収まります。標準偏差を2倍にするとその区間で資産価格が落ち着く可能性は95.45%となり、リターンは-10%~15%になります。

 

③ファクターとそれに影響を与えうる重要課題の確認

 足元のニュース(重要課題)が、先進国の経済成長などのファクターにどのような影響を与えるのかということについて考えます。以下に記述するファクターは、資産価格に大きな影響を及ぼす項目です。

 

  • 戦術的資産配分では、比較的短い期間の投資ですので、テクニカル的な変数が重要なファクターとなります。例えば、モメンタム、クオリティ/グロース、バリュー、ボラティリティなどが当たります。
  • 戦略的/ゴールに基づく資産配分では、ファンダメンタルズが重要なファクターです。相対的に長い期間の投資であり、長期的に見ればファンダメンタルズがマーケットを形成するという原則は現状正しいです。基本的には、金利の上昇/低下、高成長/低成長に関する項目を中心にとしたファクターです。その内訳について、特に重要な項目を上げるならば、予想外のインフレ率の上昇、将来の不確実性、先進国の経済成長率、新興国の経済成長率、先進国のスプレッド(デフォルトリスクや需給)、新興国のスプレッド、為替(通貨を分散する場合、必要に応じてヘッジを利用することがあります。)、実質金利(中銀の政策)、コモディティ価格です。なお、「米国市場によって世界の株価は大きく決まるのだから、米ドルオンリーというポジションでいいのではないか」ということを聞きますが、これまでのマーケットではそれでよかったが、今後はわからないというスタンスです。

 

 戦略的/ゴールに基づく資産配分において、ポートフォリオとしての資産価格に対するファクターの寄与度は以下の通りです。難しく考えたくないという場合は、少なくとも米中を中心とした先進国経済の安定性を追っておくことが重要です。

  • 先進国の経済成長率:66%
  • 為替:18%
  • 先進国のスプレッド:10%
  • 実質金利の不確実性:9%
  • 新興国の経済成長率:2%
  • 新興国のスプレッド0%
  • 予想外のインフレ-10%

 

 上記のファクターが資産価格に大きな影響を与えます。では、ファクターは何によって決まるでしょうか。このファクターを上下させる要因は、米中貿易、FRBの金融政策や中国の景気刺激策などの重要課題です。そうした重要課題単体では、大きく資産価格が動くことは稀なケースですが、重要課題が組み合わさった結果として、予想を下回る経済成長率が見込まれる、資産価格は影響を受けます。重要課題の組み合わさりをリスクシナリオと呼びます。

※別のレベル感ですが、ゴルディロックや景気サイクル(5-7年)の大まか位置を掴むことも重要です。いつサイクルが転換するかはわかりませんが、大まかな位置を確認し、リセッションに備えることができるからです。なお、HPフィルターを利用して150年のトレンドを分析すると、短期的に転換点を予測できる人はほぼいない、中期ではまちまちであることがわかります。リセッションでさえ具体的な時期はほとんどの方が予測できないのです。ですから、シナリオは一つだけではなく、考えうる限りの数を検討します。

 

④複数のリスクシナリオの策定

資産配分を検討する前に、必ず複数のリスクシナリオを作ります。資産がどのようなリスクの上に横たわっているのかを理解することなく、相関係数標準偏差を使って資産配分を決定することは、重大な損失を招く恐れがあります。例えば、ゴルディロックが挙げられます。15/12月にFRBが1年間の利上げ停止を実施してから、株高=債券高の時代が続いていましたが、今年の1月にFRBやECBが利上げを始めたり量的緩和政策の終了を示唆している時には、徐々に逆相関になりました。過去のデータのみを使って、株と債券の相関性やリスクを割り出し配分比率を決定することは万能ではありません。そうした数値は必ず"将来"のシナリオを使って調整する必要があると考えます。

 

シナリオの位置付けとしては、重要課題(例えば米中貿易)→シナリオ(例えば米中貿易と金融政策の組み合わせ)→ファクター(例えば、予想以上の先進国の経済成長率の減退)→資産価格への影響です。複数シナリオとは、ベースシナリオを中心として、悪いシナリオ、良いシナリオなどを仮説的に作っていきます。リスクシナリオのいくつかは、別の記事「ポジション管理」に記載したので、ご覧いただけますと幸いです。

 

⑤リスクシナリオの経済・資産価格に対する影響の評価

リスクシナリオがマーケット・資産価格へどういう影響を与えるか考えます。経済成長率やインフレ率などのファクターによって、資産価格等に対するベータを調べます。資産価格等とは、例えば、平均リターン、標準偏差相関係数、CVaR(下方リスク)等を含みます。リスクシナリオごとに、データの期間やファクターの種類を変えながら、テストしてみます。

 

 ここでは単純に、ファクター(インフレ率)と標準偏差のみを使って、TIPSの配分比率を導出してみます。少し長くなるので、データプロットと結果だけを表示します。例えば、米国のインフレ率と標準偏差があったとします。

 

 単純な事例ですが、インフレ率とTIPSのリターンの標準偏差のみを使って、TIPSをどの程度組み入れたらいいのか検討します。

  • インフレ率:2.15%(98-17)、標準偏差:1.01%(98-17)→ 0%
  • インフレ率:2.15%(98-17)、標準偏差:3.03%(70-17)→13%
  • インフレ率:4.04%(26-17)、標準偏差:2.15%(26-17)→36%

 

 2020年かそれ以降か転換点はわかりませんが、リセッション入りが懸念されているので、景気後退前の期間、後退後の期間の短期、中長期のデータを使って分析することもあります。

また、上記の標準偏差の元となるデータは簡易的に税金控除前のリターンを使っていますが、各種コスト(手数料、信託報酬、税金、デフォルトリスクなど)を差し引いた正味のリターン/リスクで計算することを推奨します。商品によっては大きな差異が生まれてしまうからです。米国の地方債は税金がかかりませんが、国債社債は一般的にキャピタルゲイン20%、クーポンに37%の税金がかかるので大きな成果の差が発生します。また、デフォルトリスク等を期待リターンから差し引くことも正確な計算のためには必要です。

 

ポートフォリオ(仮)決定

前項目までのデータを使って、リスク許容度を超えないように資産配分を決定します。ポートフォリオ全体の標準偏差が、リスク許容度に近くなるようにポートフォリオを組むのですが、この時に年率リターン、CVaR、最大ドローダウン、シャープレシオソルティノレシオ、流動性等々を確認しながら、最良な資産配分を決定していきます。

ご参考までに、上記までのデータを使った抽出された基本ポートフォリオの事例です。

 

  • 流動性:2%
  • 米投資適格(国債、TIPS 社債):40%
  • 先進国HY:5%
  • 先進国株式:27%
  • 新興国株式:5%
  • 世界不動産:3%
  • 世界インフラ:3%
  • 資源:5%
  • HF:10% ※生保ファンドならば24%も可能

 

⑦どの時点でジョインするか

 ドル・コスト平均法の優位性はあると考えます。しかし、よく運用会社で推奨されている「毎月積み立て」は、工夫の余地が残されています。毎月積み立てによって、景気サイクルの位置に関わらず、毎月という間隔で資本投下すると、上昇トレンドでは平均単価を上げてしまうというリスクがあります。また、現在から、ドル•コスト平均法の効果が発揮されやすい急落局面〜上昇に転じるまでの間、投資を継続できるほどキャッシュが潤沢であるかという点が重要になります。

 ですから、ポートフォリオの組成期間、一回あたりの投資金額、投資間隔は重要なポイントです。過去の景気サイクルの終盤局面を分析すると、3月から投資を始めるならば、約2.7ヶ月毎に、総投資額の5%(最後の複数回は10%)ずつ投下して行き、4-5年程度かけてポートフォリオが完成するイメージです。UBSのレポートで、機関投資家が予想するリセッション入りは2020-2021の期間で75%でしたが、上記の間隔で投資を続ければ2024年までに急落局面が来れば購入単価が極めて安くなります。急落後は二番底を警戒しながら、通常中銀による金融緩和によって上がり始めるのでしばらくの間は資本投下を継続します。また、商品毎にエントリー期は変えてもいいかもしれません。例えば、クレジット関連は格下げやスプレッドの反転に備えて、高格付かつ短いデュレーションから手をつけたり、小型やHYなど流動性の低い商品は様子を見てもいいかもしれません。

 

⑨運用対応

 主に、以下の対応が挙げられます。

  • 相対的に上がったものを売り、下がったものを買うことによって、資産配分比率を維持します。
  • 戦術的資産配分を組み入れて、バーゲンハンティングのような機会があれば拾います。また、企業業績が落ちて、株式マーケットでリターンが取りにくくなる局面では、資産配分を組み替えたり、アルファを狙う短期的な売買を行います。しかし、昨今から続く量的金融緩和でアルファが創出される機会も減少しています。金融緩和→低金利ボラティリティの低下→価格変動の差分が縮小するという流れです。しかし、今後はこれまでとは異なるかもしれません。現状ドットチャート上では0回の利上げですが、量的金融緩和の縮小でアルファの創出機会が増えるかもしれません。
  • 経済/金融のページを執筆しますが、各種指標をチェックしながらリスクシナリオ・資産配分を調整します。短期で変わることはまれなので、四半期に一回という感じでしょうか。一例ですが、
  • 重要な指標と考えられるものは、すべてチェックします。
  • 2-10年のイールドカーブFOMCの誘導目標と市場の折り込み度合い(先物など)、政策金利と同じくらい長期金利は上がるか検討
  • 失業保険新規申請者数(3ヶ月先行)、失業率、雇用者数/非正規社員(経営者の見通し)と比較しながら、大きくマイナスになったら注意
  • PMI、特に米国のISM製造業は24mくらい先行、ドイツZEW期待指数、現状指数
  • 単位あたりの労働コスト(非農業部門は30Q先行)が上がれば、消費者信頼感、コアCPIも上がりやすく、FRBの金融政策にも影響
  • 原油先物
  • コンテイジョンは調整前に起きやすいので、トルコ、イタリア、アルゼンチンなど脆弱な国や、インドネシア、マレーシア、ポーランドなどの経常収支が悪い国を観察。こうした国々はUS Liborのスプレッドが上がるとドル調達が難しくなるので、世界経済に先行して落ちることがあります。いくら金利が高いとは言え、物価が急激に上昇してしまえば為替は上がりにくなります。
  • クレジットは、デフォルト率とデュレーション(50年程度の変化)を追います。昨今の金融政策によってGDPを上回るほどに起債が増えていて、一方で資金した資金の多くは自社株買いに費やされています。多額の起債は高い利回りが正当化しているようですが、利上げ局面では生産性との兼ね合いでは一つのイベントになりかねません。

  

レバレッジデリバティブは別の記事で執筆しようと考えています。

※資産のリターン・リスクのデータは過去のものですので、現在と過去の違いからデータを検証し直す必要があります。例えば、新興国債市場は非常に大きな市場規模で、ある程度低いリスクで高いリターンを獲得することができました。しかし、先進国の財政悪化によって信用リスクが増大し、先進国の成長率低下による利回りの低下もあいまって、先進国国債のリスクは大きくなって来たのにも関わらず、利回りは8→2%と数十年前と比較して悪化してしまいました。





これだけは知っておきたいシリーズ 〜債券〜

ポートフォリオの基本構成は、株式と債券です。ポートフォリオに組み込んだ債券は、株式下落時のヘッジ効果を期待することが多いですが、その効果の程度は時と場合によります。債券の構造とリスクを理解していれば、「債券=安心」は成立せず、慎重に選択する必要性をご理解いただけると思います。


債券とは、企業、国、地方公共団体などの発行体が、資金調達のために発行する有価証券です。投資家は、発行体にお金を貸す代わりに、利金(割引債であれば貸出金額より高い額面を獲得する権利)をもらいます。


債券は、発行日、 額面、利率、償還日などが決められて発行されます。資金調達をしたい発行体にとっては、借入日、借入金、額面に対して投資家に支払う利金の割合、返済日です。投資家にとっては購入日、貸す金額、貸したお金に対する利金の割合、貸したお金が帰ってくる日です。

その後、債券を買った投資家は、市中で売却したいと考えるかも知れません。その場合の債券価格は需給によって決まります。二人目以降の債券取得者は額面で購入しません(償還される金額は、額面の金額です)。例えば、額面100円、利率5%の債券があったとします。債券に対する需要が大きければ、利回りは4%でもいいから買いたい!という人現れるかもしれません。要求利回り4%の場合、利率は一定ですから、債券価格が高くなります。例えば、利回り5%=利金5円/債券価格100円かつ買い手の要求する利回りが4%の場合、利金は一定ですから、左項と右項を等しくするためには、分母である債券価格を引き上げます。この式に当てはめれば、不動産と同様に、債券は、買い手の要求利回りが上がることで価格が下がりますし、要求利回りが下がれば価格は上がります。買い手が増えれば増えるほど低い利回りとなり価格は上昇しやすくなります。


では、投資家の要求する利回りは、どのように決まるのでしょうか。

ベース金利+上乗せ金利(スプレッド)

ベース金利とは、基本的にその国で一番信用力のある国が発行する国債の利回りです。国債は、国が資金調達するために発行する債券であり、ベース金利とはその資金調達コストを指します。

上乗せ金利(スプレッド)は、 国よりも信用力の小さな企業などがお金を借りる際に、信用力や上述のような需給によって上乗せする金利です。

そのため、ベース金利(特に注目すべきは米国債利回り)が上昇→同じ通貨建ての機関債や社債などの債券利回り上昇、上乗せ金利が上昇→債券利回りが上昇することがあります。利回りが上がるということは、債券価格の下落を意味しますから、ベース金利や上乗せ金利の上昇は、債券保有者にとってはリスクです。


種類は多岐に渡ります。

- 政府の国債地方公共団体の地方債、政府関連の機関債:ベース金利の影響を受けやすいです。

- 格付けがBBB以上の投資適格債、BB以下の投機的各付債(ハイ・イールド債)→ ベース金利、スプレッドの影響を受けやすいです。

他にも、一定期間で利金(クーポン)がもらえる利付債、利金はもらえないが額面より安く発行される割引債(ゼロクーポン債)があります。


債券の価格変動要因として、以下の要因が挙げられます。株式とは異なるものですが、往々にして株式と同様に市場予想によって左右されるきらいがあります。

金利:市場金利が上昇すれば債券価格は下落し、市場金利が下落すれば債券価格は上昇します。例えば、中銀が金融緩和的政策に前向きなハト派に転じれば利下げ予想から債券価格は上昇しやすいですし、タカ派的なスタンスをとれば利上げ予想から債券価格は下落しやすいです。2013年には、当時FRBの議長であったバーナンキが、量的緩和の縮小に触れたことで、米10年物の国債利回りが急騰し、債券価格が10%以上下落しました。金利の主な変動要因は、「これだけは知っておきたいシリーズ~金利~」で触れた通り、インフレです。一般的に、インフレが予測されるな政策金利が引き上げられ、インフレ率の低下が見込まれるならば政策金利が引き下げられます。
信用:発行体の財務状況等の悪化で利金の支払いやお金を返還してもらえなくなる可能性が高まることによって、上乗せ金利が上昇します。例えば、国であれば財政赤字、企業であれば財務状況の悪化によって、上乗せ金利(スプレッド)が上昇することによって、価格が下落します。例えば、ギリシャ危機などデフォルト懸念が浮上することによってCDSがたくさん売られましたが、そうした懸念は同時に国債利回りは高騰させます。リーマン・ショックでは、デフォルト懸念からBB格以下のハイ・イールド債券(一般的に信用リスクが高い)は利回りが5%程度から20%を超え、価格が大幅に下落しました。また、昨年末には財務状況の悪化したイタリア10年国債の要求利回りが上昇し、価格が下落したことから、一時ドイツ10年国債とのスプレッドが320bpを超えました。(イタリア2年物も大きく下落しましたが、短期でのデフォルトは考えにくく割安でした)。他にも、5年前にエスピリト・サントが破綻した際は、株式が100%下落、続いて転換社債は96%下落、社債は徐々に下落して95%下落しました。注意すべき事項は、株式は倒産よりも前に上下動きがありましたが、転換社債社債は特に大きな動きがなかったことです。価格が安定的ということは、リスクを図る上で重要な指標ですが、それだけでは本来のリスクを見誤る可能性があるということです。
為替:外貨建て債券では、為替が変動することで為替差損が発生する可能性があります。例えば、昨年、米国の利上げに伴い、新興国通貨と比べて相対的に魅力的となった米ドルに資金流出し、新興国の通貨安が進行したことは記憶に新しいです。
投資家心理:「リスクをとってもいいから、高い利回りが欲しい」など、リスク資産に資金が流入する局面では、ハイ・イールド債や新興国債券等は本来のリスクに見合わないほどに、利回りが低下して、価格が上昇することがあります。上述の通り、サブプライム・ローンが破綻する前までは、資金流入が続いたハイ•イールド債は、金融ショックシナリオの実現によって大幅に価格が安くなりました。
このようなリスクは頻度が少ないと思われがちです。証券会社や多くの投資家は、株価であればモメンタムや、債券であれば平時の安定的な推移で判断する傾向がありますが、特にハイイールド債や劣後債、バンクローンなどは、信用リスクの顕在化によって値を大きく下げます。一見すると事例の少なそうな信用リスクですが、過去に何度も顕在化しています。高い利回りと言う理由で投資するのではなく、どのようなリスクが横たわっているか理解し、起こり得るリスクシナリオの構築やポートフォリオの目的に見合った債券であるかを見極める必要があります。

ちなみに、変動金利であれば、金利が変わっても債券価格は大きく動かないのではという問いもありますが、これは確かにその傾向があります。しかし、信用リスクが顕在化したならば、変動金利社債も、他の債券と同様に下落する可能性が高いです。


ポートフォリオを作る際の参考として、債券の利回りと、他のアセットの価格の間には深い関係があります。ご承知おきの通りですが、国債利回りが上昇すると、株式とREITも動きます。金利、信用、為替、投資家心理の変化を通じて、国債利回りは大きく変動するわけですが、その根源には、経済成長やインフレ率の上昇が横たわっているのです。つまり、経済成長やインフレによって景気が回復すれば企業業績が上昇することを意味しますから、株価は上昇します。また、債券利回りが急上昇した際は、一部のセクターの株式やREITは下落しやすいです。REITについては別の記事で触れますが、下落要因として、第一に、金利上昇による金融アフォーダビリティの悪化です。第二に、資本コストの上昇に伴うFCRが悪化します。第三に、割引率が上昇し、IRRが悪化します。一般的に、不動産と株式の間にはプラスの相関関係がありますが、国債利回りの上昇局面では、全く正反対の動きをすることがあるために注意が必要です。


○補足

-最近の金融政策

主要国の金融政策はハト派に転じつつあり、欧州を中心に債券価格が上昇しています。特に欧州の高格付や国債利回りはゼロに近く、インフレを勘案すると実質的にはマイナス利回りとなりました。

- ECBは先週の会合で、政策金利を19年末まで据え置く方針としました。また、銀行貸出を促進するTLTROの再開も発表しています。(欧州委の楽観的な見通しは注意が必要そうです)
- 中国は3月の全人代(国会のようなもの)で、金融政策に関する生命から「中立」という表現が消しました。※関税協議に伴い、中銀の政策に政治的な圧力が加わる可能性はあると思います。
- FRBは、ガイダンスで利上休止が数カ月続く可能性を示しています。※コアPCEインフレ率は低水準ですが、非農業部門の失業率と賃金の伸び率は好調で、インフレ懸念(利上げの可能性)があります。

いずれも、足元の経済成長率/インフレ率の予測の悪化が、金融緩和的な政策の根本にあり、金利が上昇しないという予測から、債券価格が上昇しています。


-債券の利回りの種類

債券の利回りの種類はら応募者利回り、最終利回り、所有期間利回りなど種類が多いですが、本質的な考え方は同じです。

(年間のインカムゲインキャピタルゲイン)/購入価格

これだけです。利回りの種類によって、タイムホライゾンが募集/購入~売却/償還の違いだけなので、言葉が違うだけで意味合いは同じです。他にも直接利回りというものがありますが、インカムゲイン/購入価格という公式で、キャピタルゲインを考慮しないので実用的ではありません。最終利回り(終利)だけ覚えておけばいいと思います。


-デュレーション

債券を購入する際に、疑問に思った方も多いと思います。(修正)デュレーションとは、「債券利回り変化に対して、債券価格がどの程度動くのか」を表します。単位は「年」です。例えば、デュレーション2年の債券利回りが1%上昇した場合、債券価格は利回り変化の約2倍である2%下落します。デュレーション3年でしたら、3%下落します。デュレーションが大きいケースでは、利回りが変化した時の価格変動が大きくなる傾向にあります。

これだけは知っておきたいシリーズ 〜金投資〜

今後、これだけは知っておきたいシリーズの展開として、クレジット(高格付/投資適格/ハイ・イールド/TIPS/EM債)、オルタナティブ(保険/戦略/絶対収益/不動産/リスクパリティ など)、株式(各種)、デリバティブや、ポートフォリオの作り方、経済のサイクルなどについて執筆したいと思いますが、前回の金利流動性に続き、今回は金です!

 

金のニューヨーク先物相場は、昨年10月の株式暴落を背景に、1オンス1,188ドルから上昇を続け、今年の2月には16年以来の高値である1,335ドルをつけました。不安定な経済やリスク資産の動向を背景に、株のヘッジ目的で金への資金流入が増しているためです。また、189月にバリック・ゴールドが、ランドゴールド・リソーシズを買収したことを皮切りに、金鉱業界においてM&Aが盛んになっています。

 

本日は、金について触れてみます。金の相場を左右する要因は、主に3つあると考えています。⑴実需、⑵リスク回避の動き、(3)米ドル相場(特に金利動向)です。

(1)実需

金の推定埋蔵量は57,000トンと言われていますが、年間3,100万トンのペースで発掘されており、このままでは枯渇してしまいます。供給は長期的に先細っていくかもしれません。一方で、新興国の経済発展を背景に工業需要が増したり、新興国の中間所得層の増加によって宝飾品としての需要も増しつつあります。こうした企業と消費者のみならず、新興国を筆頭とした中銀による需要の実需も増加傾向にあります。各国の政府の金準備残高を見ると、193月時点で、米中銀8,133トン、独中銀3,369トン、IMF2,814トン、伊中銀2,451トン、仏中銀1,040トン、露中銀2,119トン、中中銀1,864トン、スイス中銀1,040トン、日銀765トンです。米国に関していえば、ブレトン・ウッズ体制期から基軸通貨として米ドルを推進してきたために、外貨準備として他国の通貨を所有する必要がなく、一部を金購入に使ってきました。また、未だ保有量は先進国に及ばないものの、中露以外でもインドやトルコの金保有量が2007年以降急増しています。一般的には、世界的な基軸通貨である米ドルの信認が揺らいでいるという理由ですが、この流れは昨今のトランプ政権による制裁、制裁、制裁という外交によって加速する可能性があります。一方で東アジア諸国の外貨準備に占める金の割合はさほど高くありません。これは、米国からの圧力で米国債を買っているからと考えます。金の動向は、後述する通りドルの推移に大きな影響を受けますが、この中銀の保有量が重要視されることもあります。例えば、97アジア通貨危機です。FRB政策金利を大幅に引き上げたことによって、新興国から米ドルに資金が流出しました。これを受けて、97新興国の通貨安が加速し、自国通貨の下落を抑えるために新興国の中銀が金を大量売却したことによって、金価格は下落しました。主な変動要因は、短期金利による値動きですが、実需による影響も無視できないところです。

(2)リスク回避の動き

昨今のような不安定な経済環境やリスク資産の動向を背景に、市場センチメントが悪化する傾向にありますが、そのような局面では株式のヘッジ目的で金が買われることがあります。また、金は他の資産とは異なる動きをする傾向があります。ですから、リーマン・ショックのような金融ショック時にはポートフォリオの緩衝材として効果を発揮するかもしれません。実際にリーマン・ショックでは株式が大きく下落した局面では、金価格は上昇しています。チャイナショックや昨年10月の大幅な下落では、あまりヘッジ効果が見られなかったのですが、それは(3)による影響が大きかった問い考えています。

(3)米ドル相場(特に金利動向)

過去45年間のデータを取ると、ドルの動きに合わせて金は逆相関の動きをしてきました。FOMCの金融スタンスが以前までは19年に3回利上げ(75bp)を見込んでいましたが、一転してハト派的金融政策が見込まれ、利上げの市場予想(19年のFFレート市場予想)はほとんど0回になったことを受けて、2年もの国債利回りの上昇圧力が下落し、金価格にとってはいい材料となりました。一般的に、金には金利がつかないため、金利の上昇が生じるとドルや債券と比較して相対的な魅力が減少するためです。しかしながら、足元の米国の潜在成長率は2%程度、18年の実質的な成長率は2.6%、19年はというと雲行きが怪しくなりつつあります。例えば、堅調な企業設備投資とは裏腹に住宅投資がマイナス成長に転じました。日本同様、不動産価格の上昇と金融アフォーダビリティの悪化(金融機関が貸し渋ったり、金利が上昇したりすることによって、買い手が少なくなること)が理由です。さらに、米中のハイテクの覇権争いである貿易紛争も懸念材料です。「合意」にまつわるニュースはことあるたびに報道されますが、違反時の罰則など細かい取り決めを含めると早期決着は難しく、早くても19年後半の決着を見込みますが、しばらくの間関税による経済成長の押し下げ効果は継続しそうです。また、重要な課題として、19年以降は減税効果の剥落も懸念されるために、潜在成長率を下回る成長率とならないように、FRBハト派的スタンスはしばらくの間継続すると見込みます。すると、利上げに伴うドル高圧力の可能性は後退し、金相場にとっては追い風となる可能性があります。米国の双子の赤字(経常収支と財政収支の赤字)も、金相場にとっては重要な課題です。米国は約10年で赤字の膨張と削減を繰り返しているわけですが、19年以降はパターン通りに推移すれば、削減サイクルへと突入します。一般的には、双子の財政赤字が懸念されると、財政政策が取りにくくなるために、ドル安圧力がかかりますから、米ドルと比較して金(日本円保有分に対する為替ヘッジを行わない)は有利に推移する可能性があります。

ちなみに、金鉱株セクターの投資タイミングは、FRBタカ派に転じることによって、2年物国債利回りが下落してからだと考えていますがら現状MSCI ACWI株価指数MSCI素材株価指数、金鉱株を比較して見ると、金のPBRは、素材に対しても、世界株式全般に対しても相対的に魅力的な水準であります。上値余地は大きいと考えますが、それは当局の金融政策、金融ショック次第ということになるでしょう。

金融ショック、ボラティリティの高まり、ドルの下落に備えて、ポートフォリオの一部として、組み入れてもいいかもしれません。

 

補足 

金に投資すると一口にいっても、様々な方法があります。例えば、純金積立、純金裁定、地金、ETF、金鉱セクターの株式、金先物です。金の裏付けがある投資として、純金積立、地金、一部の金ETFがあります。地金は5年以上の長期譲渡で譲渡所得が1/2となる利点がありますが、保有コスト(保管等)が極めて高く、投資という意味合いではよくありません。純金積立は、地金ほどではないにしても、取引に関するコストが比較的高くかかります。金ETFは、保有通貨の選択が可能であるだけでなく、取引コストもやすいため、一応推奨していますが、マーケットによる需給にさらされやすいです。金先物については、裏付けがなく、証拠金による取引となるため投機的意味合いが強いです。何に投資するかは目的によって決めるべきと思いますが、コスト面、リスクシナリオへの対応策としての目的でしたら、ETFか株式でしょうか。

これだけは知っておきたいシリーズ 〜流動性リスク〜

前回少し長くなりすぎたので、今回はコンパクトにまとめてみようと思います。

リーマンショック時に米ハイ・イールド債が売られ、利回りが20%を超えて価格が下落しました。ハイ・イールド債とは、いずれクレジットの記事を書く際に触れると思いますが、低格付の企業・政府等が設備投資やM&A等の資金調達をするために発行する債券を指します。投資不適格債とも呼ばれています。低格付というのは、ムーディーズS&P社などの格付会社が、企業・政府などの信用を評価するのですが、ムーディーズならBa以下、フィッチやS&PならBB以下ということであり、投資適格債と比較してデフォルトリスクの高い(信用力の低い)債券が、一義的にハイ・イールド債とよばれます。ハイ・イールド債は、デフォルトリスクのプレミアムが乗った利回りを獲得できるため、比較的デフォルトリスクの小さいとされる国債と比較すると、利回りのスプレッドが大きい傾向にあります。このハイ・イールド債は、前回のブログで触れた「信用縮小」の局面で買い手が一気に減少する傾向があります。リーマン・ショックの前に、米金利が上昇すると、米国のハイ・イールド債は一気に売られ、流動性リスクが発生して、売ろうにも買い手がつかず、利回りが20%を超えて下落しました。恐ろしいリスクなのです。日本の不動産バブル時代の不動産も同様でした。

 

流動性リスクとはそもそもなんでしょうか。冒頭で触れた金融ショック時など、売買が極端に少なくなることで取引が成立せずに、売りたいときに売れない可能性を指します。株価は価格下落が予想されると買い注文が少なくなり、価格下落の圧力が強まります。 実際に価格下落が発生すると、さらに売り注文の圧力が強くなり、更なる下落も見込まれます。特に、取引規模に比べて大きな売りがある場合(特に小規模な市場)や、大きな資金を運用する投資家がいる場合は、流動性リスクが顕在化しやすい傾向にあります。例えば、2007年にベトナム株式市場がブームとなって、大量の資金が小規模なベトナム株に流入したことによって、株価は5倍以上に膨れ上がりました。 しかし、一度価格下落圧力が高まり、資金が流出しだすと株価は一気に1/5に下落しました。 最近は、CTA等の高頻度取引が増え、一度動き出した価格下落圧力が増幅される傾向がありますので、流動性リスクは顕在化しやすくなったと考えています。

 上述の通り、流動性リスクが顕在化すると、寄り付き前の売り気配のように価格がつかないことや、換金できないことがあります。例えば、2015年の中国株市場の取引停止、2016年英不動産ファンドの解約停止など、資産価格が下落しているのにも関わらずどうすることもできないといったことが発生しました。取引規模と比較して、海外ファンドなど大口の投資家が買っている場合は、そうした大口の投資家が売った時に買い手がつかなくなることがあり、他の投資家が魅力的と考える水準を超えても売りが落ち着くまで下落する可能性があります。冒頭で触れたリーマン・ショック時の米ハイ・イールド債も同様に、大幅下落しました。

 注意すべき点は、資金流入時には流動性リスクが大きな市場ほど値上がりする傾向があるので、一見すると魅力的に思えることです。そうした魅力と併せて、検討しなければならないことは、金融ショックに備えて、流動性リスクの大きさを把握することです。例えば、流動性リスクをはかる指標に、時価総額出来高があります。MSCI日本指数は時価総額437兆円、出来高2580億円であることに比較して、東証REIT指数は時価総額11兆円、出来高379億円です。最近できたインドREITや香港REITは高利回りですが、そのほとんどは出来高が極めて少ないものが多いです。そうした時価総額出来高に対して、例えば、日本株式市場に379億円の売り注文を出しても市場で吸収することができそうに思えますが、日本REIT市場に379億円の売り注文を出せば流動性リスクが顕在化することは必至でしょう。特に景気サイクル後期の流動性リスクが発生しやすい時に、中小株、ハイ・イールド債の商品を選ぶときは、時価総額出来高を確認することを推奨します。