これだけは知っておきたいシリーズ 〜流動性リスク〜

前回少し長くなりすぎたので、今回はコンパクトにまとめてみようと思います。

リーマンショック時に米ハイ・イールド債が売られ、利回りが20%を超えて価格が下落しました。ハイ・イールド債とは、いずれクレジットの記事を書く際に触れると思いますが、低格付の企業・政府等が設備投資やM&A等の資金調達をするために発行する債券を指します。投資不適格債とも呼ばれています。低格付というのは、ムーディーズS&P社などの格付会社が、企業・政府などの信用を評価するのですが、ムーディーズならBa以下、フィッチやS&PならBB以下ということであり、投資適格債と比較してデフォルトリスクの高い(信用力の低い)債券が、一義的にハイ・イールド債とよばれます。ハイ・イールド債は、デフォルトリスクのプレミアムが乗った利回りを獲得できるため、比較的デフォルトリスクの小さいとされる国債と比較すると、利回りのスプレッドが大きい傾向にあります。このハイ・イールド債は、前回のブログで触れた「信用縮小」の局面で買い手が一気に減少する傾向があります。リーマン・ショックの前に、米金利が上昇すると、米国のハイ・イールド債は一気に売られ、流動性リスクが発生して、売ろうにも買い手がつかず、利回りが20%を超えて下落しました。恐ろしいリスクなのです。日本の不動産バブル時代の不動産も同様でした。

 

流動性リスクとはそもそもなんでしょうか。冒頭で触れた金融ショック時など、売買が極端に少なくなることで取引が成立せずに、売りたいときに売れない可能性を指します。株価は価格下落が予想されると買い注文が少なくなり、価格下落の圧力が強まります。 実際に価格下落が発生すると、さらに売り注文の圧力が強くなり、更なる下落も見込まれます。特に、取引規模に比べて大きな売りがある場合(特に小規模な市場)や、大きな資金を運用する投資家がいる場合は、流動性リスクが顕在化しやすい傾向にあります。例えば、2007年にベトナム株式市場がブームとなって、大量の資金が小規模なベトナム株に流入したことによって、株価は5倍以上に膨れ上がりました。 しかし、一度価格下落圧力が高まり、資金が流出しだすと株価は一気に1/5に下落しました。 最近は、CTA等の高頻度取引が増え、一度動き出した価格下落圧力が増幅される傾向がありますので、流動性リスクは顕在化しやすくなったと考えています。

 上述の通り、流動性リスクが顕在化すると、寄り付き前の売り気配のように価格がつかないことや、換金できないことがあります。例えば、2015年の中国株市場の取引停止、2016年英不動産ファンドの解約停止など、資産価格が下落しているのにも関わらずどうすることもできないといったことが発生しました。取引規模と比較して、海外ファンドなど大口の投資家が買っている場合は、そうした大口の投資家が売った時に買い手がつかなくなることがあり、他の投資家が魅力的と考える水準を超えても売りが落ち着くまで下落する可能性があります。冒頭で触れたリーマン・ショック時の米ハイ・イールド債も同様に、大幅下落しました。

 注意すべき点は、資金流入時には流動性リスクが大きな市場ほど値上がりする傾向があるので、一見すると魅力的に思えることです。そうした魅力と併せて、検討しなければならないことは、金融ショックに備えて、流動性リスクの大きさを把握することです。例えば、流動性リスクをはかる指標に、時価総額出来高があります。MSCI日本指数は時価総額437兆円、出来高2580億円であることに比較して、東証REIT指数は時価総額11兆円、出来高379億円です。最近できたインドREITや香港REITは高利回りですが、そのほとんどは出来高が極めて少ないものが多いです。そうした時価総額出来高に対して、例えば、日本株式市場に379億円の売り注文を出しても市場で吸収することができそうに思えますが、日本REIT市場に379億円の売り注文を出せば流動性リスクが顕在化することは必至でしょう。特に景気サイクル後期の流動性リスクが発生しやすい時に、中小株、ハイ・イールド債の商品を選ぶときは、時価総額出来高を確認することを推奨します。