これだけは知っておきたいシリーズ 〜金投資〜

今後、これだけは知っておきたいシリーズの展開として、クレジット(高格付/投資適格/ハイ・イールド/TIPS/EM債)、オルタナティブ(保険/戦略/絶対収益/不動産/リスクパリティ など)、株式(各種)、デリバティブや、ポートフォリオの作り方、経済のサイクルなどについて執筆したいと思いますが、前回の金利流動性に続き、今回は金です!

 

金のニューヨーク先物相場は、昨年10月の株式暴落を背景に、1オンス1,188ドルから上昇を続け、今年の2月には16年以来の高値である1,335ドルをつけました。不安定な経済やリスク資産の動向を背景に、株のヘッジ目的で金への資金流入が増しているためです。また、189月にバリック・ゴールドが、ランドゴールド・リソーシズを買収したことを皮切りに、金鉱業界においてM&Aが盛んになっています。

 

本日は、金について触れてみます。金の相場を左右する要因は、主に3つあると考えています。⑴実需、⑵リスク回避の動き、(3)米ドル相場(特に金利動向)です。

(1)実需

金の推定埋蔵量は57,000トンと言われていますが、年間3,100万トンのペースで発掘されており、このままでは枯渇してしまいます。供給は長期的に先細っていくかもしれません。一方で、新興国の経済発展を背景に工業需要が増したり、新興国の中間所得層の増加によって宝飾品としての需要も増しつつあります。こうした企業と消費者のみならず、新興国を筆頭とした中銀による需要の実需も増加傾向にあります。各国の政府の金準備残高を見ると、193月時点で、米中銀8,133トン、独中銀3,369トン、IMF2,814トン、伊中銀2,451トン、仏中銀1,040トン、露中銀2,119トン、中中銀1,864トン、スイス中銀1,040トン、日銀765トンです。米国に関していえば、ブレトン・ウッズ体制期から基軸通貨として米ドルを推進してきたために、外貨準備として他国の通貨を所有する必要がなく、一部を金購入に使ってきました。また、未だ保有量は先進国に及ばないものの、中露以外でもインドやトルコの金保有量が2007年以降急増しています。一般的には、世界的な基軸通貨である米ドルの信認が揺らいでいるという理由ですが、この流れは昨今のトランプ政権による制裁、制裁、制裁という外交によって加速する可能性があります。一方で東アジア諸国の外貨準備に占める金の割合はさほど高くありません。これは、米国からの圧力で米国債を買っているからと考えます。金の動向は、後述する通りドルの推移に大きな影響を受けますが、この中銀の保有量が重要視されることもあります。例えば、97アジア通貨危機です。FRB政策金利を大幅に引き上げたことによって、新興国から米ドルに資金が流出しました。これを受けて、97新興国の通貨安が加速し、自国通貨の下落を抑えるために新興国の中銀が金を大量売却したことによって、金価格は下落しました。主な変動要因は、短期金利による値動きですが、実需による影響も無視できないところです。

(2)リスク回避の動き

昨今のような不安定な経済環境やリスク資産の動向を背景に、市場センチメントが悪化する傾向にありますが、そのような局面では株式のヘッジ目的で金が買われることがあります。また、金は他の資産とは異なる動きをする傾向があります。ですから、リーマン・ショックのような金融ショック時にはポートフォリオの緩衝材として効果を発揮するかもしれません。実際にリーマン・ショックでは株式が大きく下落した局面では、金価格は上昇しています。チャイナショックや昨年10月の大幅な下落では、あまりヘッジ効果が見られなかったのですが、それは(3)による影響が大きかった問い考えています。

(3)米ドル相場(特に金利動向)

過去45年間のデータを取ると、ドルの動きに合わせて金は逆相関の動きをしてきました。FOMCの金融スタンスが以前までは19年に3回利上げ(75bp)を見込んでいましたが、一転してハト派的金融政策が見込まれ、利上げの市場予想(19年のFFレート市場予想)はほとんど0回になったことを受けて、2年もの国債利回りの上昇圧力が下落し、金価格にとってはいい材料となりました。一般的に、金には金利がつかないため、金利の上昇が生じるとドルや債券と比較して相対的な魅力が減少するためです。しかしながら、足元の米国の潜在成長率は2%程度、18年の実質的な成長率は2.6%、19年はというと雲行きが怪しくなりつつあります。例えば、堅調な企業設備投資とは裏腹に住宅投資がマイナス成長に転じました。日本同様、不動産価格の上昇と金融アフォーダビリティの悪化(金融機関が貸し渋ったり、金利が上昇したりすることによって、買い手が少なくなること)が理由です。さらに、米中のハイテクの覇権争いである貿易紛争も懸念材料です。「合意」にまつわるニュースはことあるたびに報道されますが、違反時の罰則など細かい取り決めを含めると早期決着は難しく、早くても19年後半の決着を見込みますが、しばらくの間関税による経済成長の押し下げ効果は継続しそうです。また、重要な課題として、19年以降は減税効果の剥落も懸念されるために、潜在成長率を下回る成長率とならないように、FRBハト派的スタンスはしばらくの間継続すると見込みます。すると、利上げに伴うドル高圧力の可能性は後退し、金相場にとっては追い風となる可能性があります。米国の双子の赤字(経常収支と財政収支の赤字)も、金相場にとっては重要な課題です。米国は約10年で赤字の膨張と削減を繰り返しているわけですが、19年以降はパターン通りに推移すれば、削減サイクルへと突入します。一般的には、双子の財政赤字が懸念されると、財政政策が取りにくくなるために、ドル安圧力がかかりますから、米ドルと比較して金(日本円保有分に対する為替ヘッジを行わない)は有利に推移する可能性があります。

ちなみに、金鉱株セクターの投資タイミングは、FRBタカ派に転じることによって、2年物国債利回りが下落してからだと考えていますがら現状MSCI ACWI株価指数MSCI素材株価指数、金鉱株を比較して見ると、金のPBRは、素材に対しても、世界株式全般に対しても相対的に魅力的な水準であります。上値余地は大きいと考えますが、それは当局の金融政策、金融ショック次第ということになるでしょう。

金融ショック、ボラティリティの高まり、ドルの下落に備えて、ポートフォリオの一部として、組み入れてもいいかもしれません。

 

補足 

金に投資すると一口にいっても、様々な方法があります。例えば、純金積立、純金裁定、地金、ETF、金鉱セクターの株式、金先物です。金の裏付けがある投資として、純金積立、地金、一部の金ETFがあります。地金は5年以上の長期譲渡で譲渡所得が1/2となる利点がありますが、保有コスト(保管等)が極めて高く、投資という意味合いではよくありません。純金積立は、地金ほどではないにしても、取引に関するコストが比較的高くかかります。金ETFは、保有通貨の選択が可能であるだけでなく、取引コストもやすいため、一応推奨していますが、マーケットによる需給にさらされやすいです。金先物については、裏付けがなく、証拠金による取引となるため投機的意味合いが強いです。何に投資するかは目的によって決めるべきと思いますが、コスト面、リスクシナリオへの対応策としての目的でしたら、ETFか株式でしょうか。