HUGE CLARITY

    前回の投稿で、今の延長線上ではなし得ない大きな大きな成果が欲しいということを書きました。その続きです。


1.非自明
 最近、ソフトバンクの株式を買いたいと思いまして、孫正義さんが目標とするところの情報革命の現況、それをけん引するソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)のマーケット評価、彼らの事業特有のマーケットリスクとヘッジ戦略、そうした諸問題に立ち向かうための組織体、特に近しい未来に訪れるであろう後継者問題に思いを巡らせていました。
 細かい論点はさておき、ソフトバンクのここ数年の歩みについて、順を追ってみましょう。ここ数年間、孫さんが決算説明会でよく言及するように、ソフトバンクは情報革命を巻き起こすために日々奮闘しています。情報革命とは、なんでしょうか。かつてPCとインターネット→スマホ→IoT機器の普及が人々の暮らしを劇的に変えたように、将来AIがあらゆる産業を再定義すると言われています。AIの知性が人間を上回ることをシンギュラリティというらしいですが、そのシンギュラリティによって巻き起こる各産業のパラダイムシフトをソフトバンクが巻き起こしたい、もっと言えば、孫さんは「ソフトバンクはシンギュラリティが起こる時代に世界のど真ん中に君臨したい」と考えているようです。そうしたビジョンを成し遂げるために彼らがとっている戦略の要が、ソフトバンク•ビジョン•ファンド(SVF)です。彼らの投資戦略は、財閥、ある領域で事業を集中した戦略(Appleならサーバー、スマホ、アプリ、トヨタなら自動車に絞った戦略)とは全く異なり、あらゆる領域でナンバーワンとなりうる会社のオーナー(実際は、30%程度の持ち株会社)となり、それらの間でジョイントベンチャーを作ったり、業務提携したりするものと私はみています。例えば、スマホ用の半導体で圧倒的なシェアを誇るArmを筆頭に、半導体・AI、AI学習、ロボ、シェアリング、Finteck、クラウド、セキュリティ、IoT会社にAIを取り組むまでの流れを形作ろうと、将来有望な会社に投資しまくっているのです。AI用の半導体で世界ナンバーワンを取るためにソフトバンク半導体業界の重鎮NVIDIAを買おうとしたことがあります。その際に孫さんの尽力もあり、ソフトバンクNVIDIA両者の合意に至りましたが、残念ながら裁判所から否認されてしまい、結果的にソフトバンクNVIDIAの一部株式を所有する至り、今はArmの成長戦略にシフトチェンジしている印象ですが、ちょっとここでは割愛します。SVFの規模は現時点で15兆円で、世界最大級のテクノロジー系ファンドとして世界中から注目されています。その資金源は、アリババへの投資で得た莫大な資産や、SVFのビジョンに魅了されたサウジアラビア(政府系ファンドであるPIF)、UAE(ムバダラ)、みなさんご存知のAppleなどによる投資です。私は当時、ソフトバンクを通信会社だと思い込んでいたので、ソフトバンクの孫さんが、サウジの皇子を口説き落としました、スティーブ・ジョブズ口説き落としましたとニュースで報じられているのをみて、え?なんで?そんなことできるの?と頭の中がハテナで満たされたことを覚えています。
 証券時代に、孫さんとお話しさせていただく貴重な機会があり、「ソフトバンクにとっての山頂とは何ですか?」と質問させていただたことがあります。孫さんは間髪入れずに「Appleの100倍を超えたい」とおっしゃっていました。鳥肌が立ったのを覚えています。当時、Appleは世界最大の時価総額を誇っており、今の時価総額はなんと417兆円です。日本の国家予算レベルですね。孫さんは、その100倍を目指しているので、ソフトバングループの時価総額を4京1700兆円にしようとしているということです。この数字をわかりやすく言えば、私はゲームが好きなので任天堂さんにお世話になりっぱなしなのですが、ソフトバンク株式を全部売れば、ゲーム界の世界的な重鎮でもある任天堂を4009個買うことができます、日本の主要な取引所(プライム+スタンダード)に上場している企業全部の45個分なので語弊を恐れずに言えば日本45個分、米国9個分買うことができます。仮に一企業がその規模を持つに至った場合、独禁法やら、安全保障上の理由やら、よく使われる政治的な理由で訴えられそうですが、孫さんの目はおおマジでしたし、たったの一代でソフトバンクグループ、ソフトバンクを合わせて時価総額国内2位を気づき上げたわけですから、凄みを感じました。
 一方で、現在のソフトバンク株式のマーケット評価は結構渋いです。世界を代表するようなプラットフォーマーとしての評価はなされずに、単なるファンドや通信会社としての値付けがなされており、PERだけどってみてもかなり低く、私はソフトバンクとは何も関係ない立場ですが、個人的に不満を感じています。
 また、後任問題も同様に渋いです。日本電産の永守さんが後継者をみつけ事業を引き継ぎいだことはご存知と思いますが、孫正義さんもいずれ引退しなければなりません。しかし後継者候補と騒がれた、Googleの上級副社長兼最高事業責任者のニケシュ・アローラさん、ドイチェバンクの輝かしい時代を築いたラジーブ・ミスラ、私が出会った中で一番優秀だなあと感じたゴールドマンの佐護さんもダメ。ソフトバンク内部で何が起きているのかわかりませんが、もしかして、この世に、孫さんの情報革命を引ぐことができる人なんて存在しないのでは、と考えてしまいます。

 ざっくりと書いただけですが、そんな感じで、孫さんが思い描くビジョン、そして現在までの実績は、割とマジでやばすぎて、訳が分からないのです。

 ちなみに、(さっきから適当な表現ですみません、わけのわからなさについては後で詳しく書きますが)他にもわけがわからんくらい凄い人は散見されます。以下は、私がこれまで活動の詳細を見てきた中で、すごいなあと思った人を、誠に勝手ながらマーケットからの評価の高さ×わけわからない度合で比較したものです。
 外銀・戦コンのMD<<<<<<<佐護勝紀さん<村上世彰さん<<<藤田晋さん<<<<<<<<孫正義さん<<<佐々木健二さん
 右に行けば行くほど、目標設定もアプローチもアートすぎて、彼らがおかれている状況はなんとなく理解できますが、「仮に私が〇〇だったら、こうするはずだ」という回答をズバッといえないのです。
 上記の軸の「マーケットからの評価」という項目を単に実績と置き換えてみれば、アカデミックの世界では、ユークリッドにリーマン多様体を埋め込んだジョン・ナッシュさん、幅広い研究分野の基礎でもあるガウスさんがいますし、スポーツの世界ではメッシがいます。世界の名門クラブのサッカー選手がメッシュと対峙した後に、「宇宙人、止める術がない」というようなことをいっていましたが、各界にわけのわからないくらい凄いひとは少なからず存在します。

 
2.多大な明晰
 一方で、ある程度の営業マンや(年齢や体力的な制約はありすので実現可能かは別として)並みのスポーツ選手であれば、そのレベルにたどり着くために何をすればいいかが大方想像がつきますし、彼らの今置かれた状況からどう好転できるかアドバイスもできます。それと比較して、孫さんの活動やプロサッカー選手がメッシと対峙したときに感じる非自明性は、私が彼らの取り組みについて、極めて明晰であるとは言うことは到底できないばかりか置かれた状況の一部でさえ把握することすらままならないので、何も有用な助言はおろか、私だったらこうするだろうという意見を持ったとしても、おそらく的外れなものかのだろうと考えます。
 ちなみにいうまでもありませんが、孫さん、ナッシュ、メッシはすべからく、実績が私たちが感覚的に持っている閾値を超えてしまっています。彼らが営業マンの売上のように比較されずに個として扱われることが多いのは、実績が閾値を超えすぎると比較対象がいなくなってしまうからです。かつて、Googleという会社が「検索エンジン」を発明し、世の中に発表しました。私は、技術よりも、PCが(いまもある意味そうですが)ただの計算機だった時代、みんながぽちぽち文字を打ったり、簡単な計算ソフトをプログラムしたり、ドット絵の二次元ゲームでぽちぽちしてる時に、「検索エンジンは便利じゃね?」と思いついたことが天才的だと思います。当然独創的すぎて誰も発想したことすらないことを実現した彼らにライバルなどいませんでしたし、長い間世界の時価総額ランキングトップ5の常連です。誰もわけがわからないので、ライバルすらいなかったのです。
 話を戻します。私が仮に孫正義さんだったとして、いかに情報革命をけん引するかと考えたときに直面する非自明性を、(なんとも計測しにくそうですが)①ほとんどの人にとってその領域の知見に関して非自明性であること、その非自明に内包された②閾値を超えた成果のミックスだと定義した場合、「無理難題」という記事でも触れたように、何よりもまず、非自明を明晰にする手段を考えるべきです。自明であることの中にも、マーケットの歪みによって、自明の②は世の中を探せばあるかもしれませんが、つまらないので割愛します。
 素晴らしい実績とは程遠いですが、単に私にとって非自明な対象に取り組んだ結果視界が広くなった事例を紹介します。(あの、素晴らしい実績を残したことがないことは、触れないでください!)。
 聞き慣れない単語も多いかと思いますが、多くの訴訟を体験してきました。債権回収等の簡単な手続きから、法人間における契約外の損害論、債権額351億円のコロナ蔓延由来の大型民事再生、契約・合意・期待権の成立が問われる立証案件、都・区・組合の許認可手続きの不正や法的な主体性の否定・公定力にかかわる問題など多岐にわたる論点について、時として専門家としての弁護士がほぼ存在しない領域に至るまで、自分たちの手を動かして研究したり、心象形成に配慮した細かい表現やストーリーを考えたり、場合によっては民事ではなく行政裁判の特殊性について熟考するも判決の速さに憤りを覚えたり、挙げ句の果てには最高裁の公平さに安堵したりするなどしてきました。どうやら行政裁判の一審、控訴審などは、裁判官が出世を視野に入れているがために、割と行政寄りの判決が出やすいらしいですね。
 2020年には、上述したように取引額の大きい取引先が、コロナ蔓延による業績悪化によって、351億円にわたる負債を処理するために民事再生手続きを選択しました。その結果(実は現在似たような案件を抱えていますが)、当社が保有していた債権がほぼ無価値になりました。取引先の民事再生による当社への影響はそんなに大きくなく、余裕を持って堪えられる程度でしたが、そうした一連の事象によって、当社と大手金融機関間の借入に係るコベナンツが発動されたことが副次的に起こりました。大手金融機関が当社に借入残高の一括返済を迫ってきたのです。なので、多額のキャッシュをかき集めざるをえなかったので、本当に、本当に大変でした。法人の倒産理由は、事業の良し悪しや通期の収益性よりも、資本政策の失敗となんらかのリスクが顕在化することが重ねておきることによる、キャッシュ不足がほとんどなのではないでしょうか。いわゆる資金繰りというやつで、本当に儲かっているかどうかは二の次の問題です。米国の企業は、資金調達市場が手厚いので何年も赤字が続きでも投資を継続するスタートアップが多数あります。このような危機は、リスクが顕在化した時にどのような影響があるかを把握できていても、副次的に何が起こりうるのか検討しきれていないことによる弊害によるとも考えられます。それこそ、世界恐慌を巻き起こしたサブプライムローン問題について、デフォルトリスクの高い個人を対象とした商品特性そのものに欠陥があることは大問題でしたが、何よりもまずローンを借り受けている人の生産性の成長率が、金利上昇額を一定期間下回ったことによることが直接的な原因なのだし、そういったデフォルト事情は法人個人問わず想像に難くありません。結論としては、どれほど儲かっていても、きちんとした複数のリスクシナリオ上に合成ポジションを構築するのが大切で、それらを考慮した資本政策を用意しておかなければなりません。
 ここまでを振り返ってみて、4年くらい前まではできなかったけれど、経済的・法的なリスク管理について考慮した上でしごとかできるようになったように思います。私たちが取り組んだ分野では、その道の専門家である弁護士を凌ぐ洞察を蓄えていき、弁護士は代理人として単に法的な手続きを行う主体に過ぎない扱いをせざるをえないことも増えてきました。つまり、目的ドリヴンな結果を期待する訴訟を行うにあたり、マニアックな法的手続きや訴訟における弁護士業界の常識はしばしば結果を期待するだけのアクションでしかないケースもあり、結果に直結する訴訟戦略をある程度構築できるようになったし、加えて、裁判外の交渉や裁判前に経済的メリットを得るためのポジショニングなど弁護士の守備範囲を超えたオプションを幅広に持つことができるようになったということです。本気で取り組んだこそ、奥深い世界が見えてくることがあるのです。


3.ごくわずかな人しか見ることのできない豊沃な世界
 裁判なんてくそつまらない話はするなという声が聞こえてきそうですが、多少はその奥深さを感じていただけたならうれしいです。今の私は、法の研究者がそれに没頭する理由もなんとなくわかるように思います。以前、仮想世界の第三者対抗要件なんかクソくだらねえとかいってしまいすみませんでした。
 一方で、裁判のニュースや学校でならった数式といった断片的な情報から、その魅力に気づくことができないのはありていにいってかなり普通のことです。私も多くの人と同じように、いまだに数式に魅力を混じたことはありません。しかし、裁判の事例と同様に、稀にその奥底に豊沃な世界を感じ取ることがあります。それらは趣味の世界だけではありません。数学のようなアカデミック世界、つまらないと感じている仕事の奥底にも存在するかもしれませんが、往々にしてめちゃくちゃくわしくなってアイディアが湧いてきてからだからこそ感じる魅力があることは肌感覚で理解しています。
 私も今魅了され一生懸命取り組んでいることがありますが、孫さんが、手を尽くす価値のあるロマンのある対象を見つけたように、みんなもお宝を特定すれば、より充実した人生を送れるのではないかとも思っています。
 そのためには、自分探しの旅に出るのがいいかもしれません。こう発言すると「何を間抜けなことをいっているか」と批判されそうですね。自分探しの旅は、大学生の迷走と捉えられがちですが、かなりマジです。自分探しの旅というのは、立地的に移動することだけではなく、今取り組んでいる対象をあらゆる側面から見直してみたり、やったことのないことを本気で試してみたりするということです。そして、それらの表面をなめるだけでなく、ちゃんとかじることです。これも、世界トップ5%以内に入るくらいにかじることが大事です。そこまでいくと、ほぼ極めているわけですが、そのレベルになるまでは「あ、これ違うな」と思っても続けることです。それでも「ちがうな」と思えば、次の対象に移る、そしてまた世界トップ5%くらいになるまでかじる。その繰り返しです。そうしていれば、いつのまにか自身にとって光り輝く仕事や趣味が見つかるかもしれませんし、仮に、閾値を超えて社会的に評価されるなど、何かしらの利益を享受できると期待できるならば、あなたも孫正義の仲間入りのスタートラインに立ったということです。

4.非自明を暗中模索する
 あなたが仮に、孫正義さんのように、非自明さの中に、評価されうる機会を特定できたとして、ではどのようにそれらを明晰なこととし、実績として回収できるでしょうか。もう少しだけ踏み込んでみましょう。
 非自明性について。非自明には、グラデーションがあります。例えばこんな感じです。A.死ぬほど頑張れば全解決できる95%+死ぬほど頑張ってもわけのわからない5%、B.死ぬほど頑張ってもわけのわならない95%+死ぬほど頑張れば全解決できる5%というA~Bのグラデーションがあると仮定して、今回のテーマである非自明性のなかにおける多大な成果は、Bに振り切ったところにあるという話をしてみます。わけがわからないというのは、死ぬほど優秀な人が死ぬほど努力しても超えられないと感じさせるような壁のことです。あなたが営業マンだとして、毎月300万円程度の個人目標がいきなり300億円にされた時を考えてみてください。99.9999%の営業マンはどうしようもなく何もできずに達成できないはずです。上記でふれたように、多くのサラリーマンや事業主が生み出す成果や並のスポーツ選手の活躍はAパターンに分類されますが、Aパターンにはどういう経路を辿れば成し遂げることができるのか、その道のりを思いつくことができますし、今思いつかなくても、どうすれば思いつくのかロジックを組み立てることができるという特徴があります。一方で、ガチ中のガチすぎる閾値を超えまくっている実績を得たい場合には、その過程はBパターンに分類されます。Bパターンでは、上述したような壁が高すぎてその道程を具体的に想像することすら困難という特徴があります(Bパターンなのに、社会的に評価されないだろうことは、本人が満足しているならいいですが、自己満でしかないです。)。
 Bの極地で成果物を収穫するためには、95%の非自明性をクリアなものにする必要があります。例えば、Bの極地は、あなたがブロックチェーン素人だとして、今から世界5%くらいくらい詳しく調べるのみならず、事業の世界で言えば、まだ未知で誰も成し遂げたことのないようなサービスを提供し、世界中のライバルを打ち負かし、自らの手で世界を作っていくくらいのレベルです。ある事業領域で全世界中シェア1位をとるためのアプローチは非自明なものなので、単にその業界について熟知したところで、目的にとって自明になったとは言えないのです。Bパターンの世界で自明性を手に入れるためには、前回のブログでも記述したように、暗中模索が必要です。わざわざ暗中模索と書いたということは、Bパターンにおいては成功の方程式はなく、成果は極めて散発的に表れるということを言いたいのです。裏を返せば、個別具体的な事例を分析や明らかになっている知識を覚えたり、こうすればうまくいくという方程式のを勉強したりすることは、Bパターンを攻略するにあたり、結果を期待するだけのプラクティスでしかなく、アナロジー以外ではあまり意味がないかもしれないということです。孫正義さんの卓越した結果を見ることができても、私たちにとってそこに至る95%がわけがわからないのですから、アプローチも独創的なものになるからです。Bパターン攻略には、自分が個別具体的な対象のために手を尽くし、考えつくすしかないのです。例えば、あなたが孫さんになったとして、孫さんのビジョンを達成しようと思えば、Aパターンで通用したはずの正しい手順を踏んでも前に進まないはずで、Bパターンではその攻略方法を教科書にするくらいの能力がなければ目標不達で終わるのです。ハンターハンターの世界では、ドン•スリークスが暗黒大陸の本を出していますが、暗黒大陸以外の皆が暮らしている世界の知識をもって暗黒大陸を語ることができないのと同様です。
 ただし、AとBのアプローチが全く異なるとも思いません。非自明が多いか少ないかだけの話で、調べても誰に聞いてもわからないことを取り組むときに誰もが行うように、
 ①手始めに、3時間くらい何も調べずに、無理にでも妄想で原理的に教科書を書き、網掛けにする。
 ②網を試行錯誤しながら引っ張る。
という手順を踏んでいることは同じなのです。そのうえで、Aには十分条件、Bに必要条件の要素をあえて挙げるとすれば、「無理難題を回収する」で書いた通り、95%のわけのわからなさをサッと理解してしまうような洞察としか言いようがありません。繰り返しになりますが、Aは教科書通りに進めれば成功し、Bでは成果を刈り取るための教科書をいちから作るようなものです。そのあたりは、当然話がアートすぎて体系化できないので、最後に事例を少し触れることとして、今回はAの5%程度の非自明を明晰なものにするための流れについて、事例を交えて書いてみようと思います。例えば、Aパターンであれば、こんなやり方があると考えます。
 身近な事例で説明してみます。一般的に、営業マンのノルマは業種にもよりますが、月々300-500万円くらいでしょうか。そんななか数千万、数億と多大な成果を積み上げる営業マンは何が違うのでしょうか。売れない営業マンから見れば、トップ営業マンの日々の行動自体は他の営業マンと大きな差異は見られず、電話をかけたり、一見すると変わり映えのない提案を行っていたりするように見えます。しかし、おそらくトップ営業マンは、みんなと同じようなことをしているように見えても、その行動はかなり異質な性質を含んでいると考えるのは、あながち間違いではないと考えます。
 私も昔営業マンをやっていたのですが、ほかのみんなと変わり映えしないフローで営業していたと思います。
1.リスト制作
2.アポ取り
3.初回面談
4.提案
5.契約
 上記のフローを踏襲しつつも、契約を獲得するための試行錯誤の回数は意図的にTO DOリストに付け加えていました。それによって得た洞察量が大切だと思っています。試行錯誤というのは営業に出向く回数のことではなく、大きな成果を上げたいと目標を掲げ、そのためのアプローチを死ぬほど考え、実際に行動し、死ぬほど修正したということです。何を試行錯誤するのかというと、営業の場合突飛なアナロジーは不要で、シンプルに事細かに分解された目標数字とそれに直結する行動を数万パターン考えるだけです。例えば、実際に顧客候補にアプローチした際にアポが取れる確率、初回面談が次回の提案につながる確率、提案が成約に至る確率などをワンアクション毎にカウントし、1日の終わりに、それぞれの事細かな目標数値に対してどれだけ近づくことができたかを評価していたのです。例えば、AというリストとBというリストで結果に明確な数値の違いがあれば、次回以降は、Aというリストの特徴(業種、ジャンル、規模間、立地、従業員数など)をとらえたリストを増加させることができます。当然両方のリストで、アポ件数が変わらなければ、さらに改良したリストをいくらか用意します。また、アポ取りのためのスクリプトを複数用意したとして、成功確率はそれぞれどの程度違うかをカウントします。アポ取りの過程で受付突破という難題がありますが、「この前〇〇の会で同席させていただいたものですが、社長います?」がいいのか、「御社に魅力的なご提案を!」がいいのか、「は、知り合いなんだけど、」を突き通すのか、何百パターン、何千パターンも思いつくことができるように思いますが、それぞれどのくらいの成功確率なのか把握し、一番良いアプローチを特定したいのです。当然ですが、面談、提案も同様のことを行います。面談から提案につながる確率が20%くらいしかない人が35%に上げたい場合は、1日の営業時間の終わりにこういうことを行います。3分間、何が数値目標を達成できなかった要因なのかという課題を15案書き出すのです。なんとしても気合いで3分で書き切ります。その後、書き連ねた課題を評価します。大体の場合時間がないので、緊急性、難易度、結果に直結しそうか期待できるが直結するかわからないか、というざっくりレベルで◎〜×と書くだけでいいかと思います。そのようにして、解決すべき課題を特定できれば、それぞれの課題ごとに15以上の解決策をこれまた3分で書き出します。時間的にかなりきついですが、頑張って書き切ります。そして、それぞれの解決策に対してどの程度の効果が見込めそうか、上述のように評価します。このように暫定的に特定した効果のありそうな行動を、早速次の日に試します。これを毎日繰り返すのです。
 蛇足ですが、アポが取れたとして、初回の雑談から提案時に一気に熱が冷めてしまい次回のアポが取れないという課題があったとして、どうしても有用なアイディアが思いつかなければ、営業成績の良い人に頼み込んで同席させてもらうのもいいとおもいます。大体この場合の課題は、雑談から提案までに流れをブチ切りしていることが原因なので、ブリッジの練習をすれば大きく提案までの確率は上がると思いますが、そうしたアイディを自分で発見し、理解することが重要だと思います。
 最終的に私の場合は、超大物一本釣り戦略というくそださい名前の営業プランを採用していました。つまり◯◯の業界のなかでも〇〇というポジションにいる会社×会社規模ごとにリストをつくり、それらリストごとに百パー突き刺さるだろうと確信できるようなアイディアを、リストごとに最低5本は用意しておくという作戦を採用しました。手間がかかる分、超大物だけをターゲットにしていました。ほんとにここに行きつくまでは大変でした。例えば、不動産会社を、デベ、仲介、管理という種別で分類してリストを作る場合、不動産デベや仲介のオーナー社長に対しては、不動産に興味ある人を大量に獲得する方法として不動産特定共同事業×匿名組合(相続している会社に対しては任意組合)×ワンロット100~10,000円というアイディアは、実際に1回のファンド生成で、ファンドのサイズにもよりますが、300人~500人程度の見込み顧客を獲得することができますし、何より儲かるのです。異次元運用プランで事業利益を200%くらい改善できそうなアイディアに、投資家還元プランを付け加え、顧客誘導を促したり、デベが投下資本5億に対して利益が5000万円と見込んで商品作りをしている場合には、2億くらい儲かるプランを持っていき採用してもらったりするなど、確実にそのオーナー社長が飛びついてくるネタを何本も用意しておいて、そこを間口にしていました。こうしたプランは、証券マンならよくやることですが、事業の分析を何度も何度も繰り返しているうちにおのずと思いつくものだと思います。不動産用だけではなく、エネルギー関連用、人材紹介会社用など、たくさんのリストを作りました。また、バーター化しないための作戦とか、金を引っ張り出す方法とか、いろいろかなり考えていたので気になる方は聞いてもらえればと思いますが、上記のフローは絶対にまあいいやてへぺろで絶やしてはならないです。24時間間髪入れずにやり続けましょう。
 上述の例では、試行錯誤によって一つ一つの流れを逐一点検した結果、誰も試したことのないアイディアが見つかったり、その結果として閾値を超えた成果を出すことができた実体験として、なんとなく体験していただければと書いたものです。しかし、この事例は、ほとんどのことは調べたり先輩の話を聞けば解決し、若干の創意工夫が必要くらいの難易度なので、Aパターンですね。このブログで何度も言及してきた暗中模索というのはこういう雰囲気だということを感じ取ってもらえれば大丈夫です。Bパターンでも同様に、Bパターンのうちにある多大な成果を手にするためには、まずは何からも学ばずに死ぬほど考えて、手を動かし、また考えるという連続が必要です。繰り返しになりますが、Bパターンでは、多大な明晰さを得るための洞察がより必要になってきます。

 

5.優れた洞察は魔法のような思いつき
 最後に、繰り返し触れてきた洞察についてもう少し深掘りしてみます。過去の記事でも触れたことがあるので、お時間ある方は「無理難題」をぜひ読んでください。
 優れた洞察とは、魔法のような思いつきと言ったほうがいいかもしれません。その思いつきさえあれば、真っ暗でわけのわからなかったゴールへの道のりが途端に照らされるのです。
 暗号資産の価値が大幅に上昇したことをきっかけに、ブロックチェーンのスマートコントラクトでPvP決済を行う際にかかるコスト、つまりETHのガスフィーの高騰が問題になっていました。ETHチェーンで承認を受けるためには、大きなフィーを払わなければならなかったのです。ブロックチェーンを使って契約・決済のコストとオフチェーンで契約・決済する際のそれを比較した場合、ブロックチェーンを利用すれば単にコストが上がるので、ガスフィー問題は割とブロックチェーン事業者にとって死活問題でした。今でこそ、Polygonのようなレイヤー2やSolana、Sui、アバランチがイーサを補完しましたし、特にSolanaはスケーリングの問題をパスしたっぽいのですが、当時はERC20や1155といった規格で作られたサービスを使う際の高いガスフィーを、サービス利用者は受け入れなければなりませんでした。これに対して、法律上必要な項目を各地域で個別に特定し、それらにあった情報のみをブロックチェーン上にプログラムするようにすれば、ガスフィーが1/22程度に収まることに気づいたのです。営業の例で言えば、細分化されたマーケットのニーズ特定と商品設計という一連の作業を営業マン単位に落とし込むことによって、大物を複数人開拓することができ、誰でも思いつきそうなアイディアでしたが、月間5,000万円そこそこの取引が、1年半程度で一時500億円を超えることもありました。そのアイディアを思いつくまでの経緯がしんどいかったですが、AIマーカレスモーションキャプチャー事業はそもそもそれを思いついた時点で、売上を複数年上昇させ続けるだけで上場できるし、ベースシナリオで3000億程度の時価総額は余裕だと思っています。そして、そうした事業を遥かに凌ぐ、これまでの延長にないような多大な成果として、ブロックチェーン事業に取り組んでいます。まだまだ私はBパターンの極致にある事業を何も成し遂げていませんが、孫正義さんや佐々木健二さんのようになりたいと思っています。
 一方で、Bパターンを打開するような神がかった思い付き(洞察)は、狙ってでてくるようなものではありません。例えば、Bパターンの例として「営業ノルマを100倍に引き上げます」と上司に言われたとして、すぐに適切なアクションを思いつく人なんかいないと思うのです。ほとんどの方がその目標に歩み寄ることすらできないでしょう。2018年の暖かい季節だったと思いますが、小林秀雄賞を受賞された森田さんにお会いするために千駄木にお邪魔しました。その帰りに近くの喫茶店に立ち寄って、なんとなくTwitterを開きぼんやりとツイートを見ていたところ、たまたまコムデギャルソンから独立された小石さんという方が、森田さんと交友があり、二人でやり取りしているのを見かけました。なぜだかわかりませんが、彼の文体が単に好きで、少しさかのぼって読んでみると、ファッションの有様を見たこともないアプローチで分析している斬新さがありました。その後、たまにリプライでやりとりさせていただく機会も増え、どんな内容のやり取りだったかすっかり忘れてしまいましたが、私が彼のツイートにコメントしたことをきっかけに、小石さんから「いつもツイート拝見しています。もし機会があればお話しする機会が欲しいです。」というような内容のDMを受け取ったことを覚えています。彼は、デザイナーや作家などアーティストの活動を阻む言語や資金等の壁があり、それをぶち壊すことができれぼ莫大なエネルギーが社会に流れ込むはずだというようなことをおっしゃっていたように記憶しています。私は金融関連のことばかり呟いていたので、そうした活動に係る金融面の話がしたいと。この系譜で結果的に現在ブロックチェーンに取り組んでいるわけです。そんな彼が、もう閲覧できないのですが、FREE MAGAZINEというウェブサイトに「新しい」という概念について、抽象度の高いエッセイを寄稿していました。彼にとって、「新しさとは、周回遅れのデッドヒートから生まれてくるものなのかもしれない」ということが綴られたエッセイだったと思いますが、私はそのエッセイを読んで、新しさは最先端から生まれてくるとは限らないというように理解しました。あるいは、メインストリームだけではなく辺境から新しさが顕現する可能性も意図し書かれたようにも捉えることごできます。さらに拡大解釈してみるならば、新しさの発生源だけではなく、そのタイミングも、往往にして予測不能なものかもしれないなと考えています。
 ここで「虎が木の周りをぐるぐると高速回転していると、突然バターになる。」という話をしてみようと思います。この話は、1988年に絶版した「ちびくろサンボ」という絵本にでてくる逸話です。思考を働かせすぎると脳みそが溶けたような気分になるという状態を意図して描かれたシーンらしいのですが、私はこれを読み、「ファンタジーの世界では、高速で動き回ると、物理法則を跳躍して、異質化することがある。」という感想を持ちました。間違いなくミスリーディングですが、ミスリーディングの中に大きな示唆があると思えるのです。筑波大学准教授の落合陽一さんとモリス・バーマンの言葉を借りれば、錬金術という仕組みのわからない技術?の時代が終焉を迎え、科学技術の発展により社会の仕組みがより明らかになりました。そして、この先は科学技術が進歩しすぎてしまい社会の中身がよくわからなくなってしまうのではないかということです。技術が進みすぎて誰も仕組みが理解できない社会は、錬金術による物質の生成理論がブラックボックスであったという側面と類似しているということです。小学生並みの表現で申し訳ないのですが、スピーカーや黒電話の仕組みを理解し作ることができても、スマホでなぜYoutubeを見ることができるのかを理解し、素材から再構築できる人はほとんどいないのではないかと思います。このブログの文脈で言えば、Bパターンの領域で戦っている孫正義さんが、どうしてその課題を解決できるのかという合理的な理由は一切わからなことと同じようなことです。孫正義さんが取り組む対象は、多くの人が理屈がわかったうえで取り組むAパターンとは事情が異なり、つまり資本が潤沢だとか、戦略のロジが通っているだとか、それぞれの分野に精通した人員が揃っているだとか、事業の運営を考えるうえで検討することの多い要素だけではまったくもって戦えないないほどに非自明性が満ちているのです。優れた洞察とは、そうした非自明性に多大な明晰さを与える一方で、いつどこで思いつくかわからないものです。しかし、何かしらの活動にデッドヒート、例えば、試行錯誤とスクラッチが過度に行き過ぎた状態にあるときに、虎が高速回転しすぎてバターになるように、極めて散発的に思いついてしまうものだと思っています。