ポートフォリオの作り方

 BridgeWateのレイ・ダリオ「最も重要なことは資産配分戦略を持つこと」、Yale大学基金「投資成果の要因は資産配分が86%を占める」など、名だたる投資家たちが指摘する通り、資産配分は運用を行うにあたって極めて重要な要素です。

 

 そもそも、資産価格はなぜ上昇するのでしょうか。短期的にはテクニカル的要因、長期的にはファンダメンタルズが資産価格を形成します。投資戦略によって重要なファクターは異なるものなので、詳細は後述します。ファンダメンタルズのなかでも、とりわけ先進国の実質GDP成長率は今後どのような見通しでしょうか。国際通貨基金(IMF)によれば、2019年、2020年におけるグローバル経済成長率は、それぞれ3.5%、3.6%です。直近では英国を除くG7は潜在成長率以上の成長をする見込みです。また、英プライスウォーターハウスクーパースは、2042年までに世界のGDPは倍増する調査結果を出しています。

 

 資産価格の形成要因である、「世界の経済成長」は今後も続く見通しであるのにもかかわらず、負け越す投資家が続出しています。なぜでしょうか。理由は大きく二つに集約されると考えています。

 ① 個別リスクに晒されている

  • 「成長の見込まれる会社を持っている」:個別企業に投資している場合、投資先の業績が悪化すれば下落します。
  • 「複数のセクターの株式を幅広く所有している」:セクター・国に対するバランスをとっている場合でも、株式市場全体に連動します。
  • 国債と株式をバランスよく持っている」:ゴルディロック等など株式と国債が同じ方向に動いたり、リスク量に対するバランスが偏っているケースでは、株式の下落によってポートフォリオ全体が大きく下げる。
  • 「ハイパフォーマンスを継続する大学基金を真似している」:ハーバード大学やイェール大学のオルタナティブ戦略は往々にしてダウンサイドに弱く、キャッシュが潤沢である必要がある。

 

 ② 値動きが大きい。

  • リスク資産は往々にして値動きが大きいです。例えば、株式が20%下落した場合、25%上昇しなければ同じ期間で投資金額を取り戻すことはできません。また、こうした値動きは、ヘッジファンドの高速取引が増加して高まりやすい傾向です。

 

上記①②の状況に陥ってしまう背景には、偏った資産配分があることが多いです。また、偏った資産配分が発生してしまう背景には、まず、「どれだけ複雑なモデルを組んでも将来は読めないということを忘れていること」が挙げられます。実際に、あらゆる金融のテクノロジーを駆使して予測された金利は、ほとんど当たらないのにもかかわらず、「FRBは2019年に利上げを行わない」という中心的なシナリオに強い自信を持つ方も多くいます。そして、複数のシナリオを考慮せず過去のデータだけを参考にするなど、ポートフォリオの構築にとって大切なプロセスを省略してしまうことによる弊害が考えられます。

 

 ①②を避けるためには、適切なポートフォリオの構築プロセスを踏襲することが有効だと考えています。正しく分散投資を実行すれば、(A)リスク要因を分散させ、(B)値動きを抑えるという分散効果を発揮しながら、経済成長等によるリターンの確実性を高めることができるからです。

 

 具体的な(A)リスクの分散、(B)値動きの抑制といった分散効果を発揮させるコツは、ポートフォリオ資産を増やすよりも、値動きの向きが異なる資産を、値動きの大きさと比較しながら組み合わせることです。その値動きの方向性と大きさを表す代表的な指標は、それぞれ相関係数標準偏差です。

 

  • 相関係数は、資産の値動きの向きを表し、-1~1の間の数値をとります。複数の資産の値動きの「方向性」が同じならば相関係数が1、関連性がないならば0、逆に動くならば-1に近くなります。例えば、日本と先進国株式の相関係数は0.8です。世界株式バランスファンドに投資すれば分散投資の効果を期待できるのではないかといった話を聞くことがありますが、実際には分散しているつもりでも上記にあげた分散効果はあまり発揮できていません。相場全体によって先進国の株式が下がれば日本株式も同様に下げることが多いからです。一方で、日本株式と国債相関係数は-0.32ですから分散効果を期待できます。
  • 標準偏差は、資産の値動きの「大きさ」を表します。年率標準偏差国債2.1%、日本株式18.7%です。相対的に国債に対する日本株式の値動きが大きいということです。ですから、日本株式と国債を持てば十分なのかと問われればそうではありません。例えば、日本株式50:国債50の割合で投資すると、日本株式が下落したときに国債ではその下落を埋められるほどのリターンは埋めることができません。これが標準偏差です。

 

重要なことは、相関係数の小さな資産クラスを選び取り、標準偏差の大きさを比較しながら保有割合を調整することです。その結果として、別々の資産がお互いに値動きを相殺し合いながら、米中経済の成長を着実に刈り取っていくのです。

 

 分散投資によって、どの程度値動きが抑えられるでしょうか。分散投資のイメージは、複数資産の合成ポジションといったほうがわかりやすいでしょうか。例えば、日本株式50:金50という割合で投資した場合、 標準偏差はそれぞれ18.7%、17.2%ですので、標準偏差の平均は17.9%ですが、全体の標準偏差は13.9%まで低下します。日本株と金の標準偏差の平均よりも4%の値動きが抑えられるということです。これは、お互いの資産が、それぞれの値動きを相殺しているから発生する効果です。また、どれほどの値動きが抑えられるかは、資産クラス間の相関係数の低さによって決まります。ですから、グローバル株式などといって日本株と先進国株式など強い相関を持つ資産に投資した場合はあまり値動きが抑えられないということになります。なお、一般的な相関係数は過去のデータから計算されたものであるため、後述するように、リスクシナリオをもとに調整することが必要です。

 

 こうした考え方を突き詰めていくと、リスク許容度に対して、どれほどのリターンを得ることができるかという問いが最終目的地のように思えます。リスク許容度とは、投資の収益がどれほどマイナスになっても受け入れることができるのかを指す度合で、基準は5%程度です。そして、そのリスク許容度の範囲内で、リスク1%に対して得られるリターンを最大化する戦略を立てるのです。話を分かりやすくするため、「1%のリスクに対して、リターンを最大化する方法」を探ります。例えば、銀行とのお付き合いで、国債に全資産を投資する場合は、リターン1.7%、リスク2.0%ですので 1.7÷2=1リスクあたりのリターンは0.85%です。国債90:日本株10の場合は、リターン2.5%、リスク2.1%ですので、1リスクあたりのリターンは1.19%です。 後者の方が、投資効率としては優れているということです。全ての資産の組み合わせで、この数値を少しずつずらしながら最適な配分比率を決定します。



 上記を踏まえて、資産配分を決定するには、どのような手順をとればいいでしょうか。それは資産配分の種類によって異なりますが、大きく分けて3つあります。

 ① 戦術的資産配分

 ② 戦略的資産配分

 ③ ゴールに基づく資産配分

 

①戦術的資産配分は、6ヶ月など短期的な投資期間で、目標収益の獲得を狙います。相関係数を利用することはあまりなく、資産クラスの予測リスク・リターンを独立して計算してポジションを取ります。

②と③は相対的に長期的な投資期間で、目標収益の獲得を狙います。資産クラス間の標準偏差相関係数を考慮しながら、合成ポジションにおけるリスク・リターンのデータに基づいて分散を行います。②と③の違いは、後者は複数のタイムホライズン、運用目標、リスク、資金需要等を考慮に入れている点で、「個人はユニークで、それぞれ異なる」という視座に立っていることです。ほとんどの顧客は複数の目標を持っていたり、急に目標ができたり、古い目標が修正されたりするため、複数のタイムホライズンの中で、それぞれのリスク、資金の需要を持っているため、それに合わせて資産配分や商品の選定を調整します。どの資産配分の方法がいいのかについては、大幅な下落・アルファを創出できる等の局面や、投資家の目的・リスク許容度等によって異なるので一概に「これがベストである」とは言えませんが、顧客との信頼関係や要望に応じて、コア戦略として②と③を選び、大幅な下落局面においてサテライト的に①を実行することが多いです。



 具体的な手順です。基本的には、リスク許容度のもとで最大のリターンを目指します。そのために、投資手法に見合ったファクターを選定し、複数のリスクシナリオを検討したのちに資産配分等を決定します。

 

①目的の確認

 顧客に、やりたいことや今後訪れるプランについて確認します。多くの型は、ライフステージ毎に資金管理手法を変えたほうがいいかもしれません。やりたいことにキャッシュを使う予定があったり、年齢を重ねるにつれて大きなリスクを取ることができなくなったり、相続の準備を開始したりするなど、人それぞれお金を使う時期、投資スタンスなどが異なるからです。例えば、30代後半までは流動性を確保し、結婚や出産、教育、住宅の購入などの臨時出費の資金を確保ししつつも、貯蓄、積極的な運用等によって少しずつ老後への備えを行います。キャリアの後半では、流動性の確保もさることながら、積極的な運用によって老後への備えへと比重を移しつつ、少しづつ生保や組織確立等によって資産承継の準備をします。退職後は年齢ごとにより細かく設定します。まずは、生活や趣味の資金を中心に流動性の確保、安定的な運用による老後への備え、事業承継や生前贈与などの資産承継の準備を緻密に始めます。特に、争続や浪費人への相続をしたくない場合は、それを目的とした明確な準備が必要です。その他にも、年齢によるリスク許容度や資金需要の変化に応じて、定期預金の比率を高めたり、デュレーションの短い債券を保有したり、株式保有割合などを組み替えたりします。流動性の確保では、2年以内の資金は定期預金やMRF、5年以内の資金は低リスク低リターン、それ以上の資金はPFなどに充当することが多いです。異なるレイヤーですが、若い方は7年以上の投資期間を設定することが、投資効率の観点で優位に立つことができます。例えば、株式と債券を50:50で投資した場合、1年目の債券に対する株式の標準偏差が13.9%であることと比較して、7年目以降に債券に対する株式の標準偏差が7年目以降に1.8%程度に減少します。12%程度リスクを抑えることができることを意味します。リスク指標であるCVaR(期待ショートフォール)は、1年目の債券に対する株式の数値が-35.8%であることと比較して、7年目以降に債券に対する株式の数値は-5%程度に減少します。ですから、長期で運用できる資産があるケースでは、長期的なスパンに立った投資を推奨しています。たとえば、70代前半までは長期のタイムホライズンを念頭に株式比率を高めに設定し、70代中盤をめどに債券比率を高めていく手法が考えられます。

 

②リスク許容度の確認

 必ず、リスク許容度を超えない範囲でリターンを最大化する戦略を作ります。  

リスク許容度は、ポートフォリオ全体の標準偏差の目標で、最大でどの程度の損失を受け入れることができるかの度合いです。基本的なリスク5%から、年齢、ご家族、資産、年収や趣味などの項目からなくなってはならない金額や、経験、投資スタンス等を何度も確認しながら調整します。

リスク許容度が5%ならば、席分布上68%の確率でリターン-5%~10%に収まります。標準偏差を2倍にするとその区間で資産価格が落ち着く可能性は95.45%となり、リターンは-10%~15%になります。

 

③ファクターとそれに影響を与えうる重要課題の確認

 足元のニュース(重要課題)が、先進国の経済成長などのファクターにどのような影響を与えるのかということについて考えます。以下に記述するファクターは、資産価格に大きな影響を及ぼす項目です。

 

  • 戦術的資産配分では、比較的短い期間の投資ですので、テクニカル的な変数が重要なファクターとなります。例えば、モメンタム、クオリティ/グロース、バリュー、ボラティリティなどが当たります。
  • 戦略的/ゴールに基づく資産配分では、ファンダメンタルズが重要なファクターです。相対的に長い期間の投資であり、長期的に見ればファンダメンタルズがマーケットを形成するという原則は現状正しいです。基本的には、金利の上昇/低下、高成長/低成長に関する項目を中心にとしたファクターです。その内訳について、特に重要な項目を上げるならば、予想外のインフレ率の上昇、将来の不確実性、先進国の経済成長率、新興国の経済成長率、先進国のスプレッド(デフォルトリスクや需給)、新興国のスプレッド、為替(通貨を分散する場合、必要に応じてヘッジを利用することがあります。)、実質金利(中銀の政策)、コモディティ価格です。なお、「米国市場によって世界の株価は大きく決まるのだから、米ドルオンリーというポジションでいいのではないか」ということを聞きますが、これまでのマーケットではそれでよかったが、今後はわからないというスタンスです。

 

 戦略的/ゴールに基づく資産配分において、ポートフォリオとしての資産価格に対するファクターの寄与度は以下の通りです。難しく考えたくないという場合は、少なくとも米中を中心とした先進国経済の安定性を追っておくことが重要です。

  • 先進国の経済成長率:66%
  • 為替:18%
  • 先進国のスプレッド:10%
  • 実質金利の不確実性:9%
  • 新興国の経済成長率:2%
  • 新興国のスプレッド0%
  • 予想外のインフレ-10%

 

 上記のファクターが資産価格に大きな影響を与えます。では、ファクターは何によって決まるでしょうか。このファクターを上下させる要因は、米中貿易、FRBの金融政策や中国の景気刺激策などの重要課題です。そうした重要課題単体では、大きく資産価格が動くことは稀なケースですが、重要課題が組み合わさった結果として、予想を下回る経済成長率が見込まれる、資産価格は影響を受けます。重要課題の組み合わさりをリスクシナリオと呼びます。

※別のレベル感ですが、ゴルディロックや景気サイクル(5-7年)の大まか位置を掴むことも重要です。いつサイクルが転換するかはわかりませんが、大まかな位置を確認し、リセッションに備えることができるからです。なお、HPフィルターを利用して150年のトレンドを分析すると、短期的に転換点を予測できる人はほぼいない、中期ではまちまちであることがわかります。リセッションでさえ具体的な時期はほとんどの方が予測できないのです。ですから、シナリオは一つだけではなく、考えうる限りの数を検討します。

 

④複数のリスクシナリオの策定

資産配分を検討する前に、必ず複数のリスクシナリオを作ります。資産がどのようなリスクの上に横たわっているのかを理解することなく、相関係数標準偏差を使って資産配分を決定することは、重大な損失を招く恐れがあります。例えば、ゴルディロックが挙げられます。15/12月にFRBが1年間の利上げ停止を実施してから、株高=債券高の時代が続いていましたが、今年の1月にFRBやECBが利上げを始めたり量的緩和政策の終了を示唆している時には、徐々に逆相関になりました。過去のデータのみを使って、株と債券の相関性やリスクを割り出し配分比率を決定することは万能ではありません。そうした数値は必ず"将来"のシナリオを使って調整する必要があると考えます。

 

シナリオの位置付けとしては、重要課題(例えば米中貿易)→シナリオ(例えば米中貿易と金融政策の組み合わせ)→ファクター(例えば、予想以上の先進国の経済成長率の減退)→資産価格への影響です。複数シナリオとは、ベースシナリオを中心として、悪いシナリオ、良いシナリオなどを仮説的に作っていきます。リスクシナリオのいくつかは、別の記事「ポジション管理」に記載したので、ご覧いただけますと幸いです。

 

⑤リスクシナリオの経済・資産価格に対する影響の評価

リスクシナリオがマーケット・資産価格へどういう影響を与えるか考えます。経済成長率やインフレ率などのファクターによって、資産価格等に対するベータを調べます。資産価格等とは、例えば、平均リターン、標準偏差相関係数、CVaR(下方リスク)等を含みます。リスクシナリオごとに、データの期間やファクターの種類を変えながら、テストしてみます。

 

 ここでは単純に、ファクター(インフレ率)と標準偏差のみを使って、TIPSの配分比率を導出してみます。少し長くなるので、データプロットと結果だけを表示します。例えば、米国のインフレ率と標準偏差があったとします。

 

 単純な事例ですが、インフレ率とTIPSのリターンの標準偏差のみを使って、TIPSをどの程度組み入れたらいいのか検討します。

  • インフレ率:2.15%(98-17)、標準偏差:1.01%(98-17)→ 0%
  • インフレ率:2.15%(98-17)、標準偏差:3.03%(70-17)→13%
  • インフレ率:4.04%(26-17)、標準偏差:2.15%(26-17)→36%

 

 2020年かそれ以降か転換点はわかりませんが、リセッション入りが懸念されているので、景気後退前の期間、後退後の期間の短期、中長期のデータを使って分析することもあります。

また、上記の標準偏差の元となるデータは簡易的に税金控除前のリターンを使っていますが、各種コスト(手数料、信託報酬、税金、デフォルトリスクなど)を差し引いた正味のリターン/リスクで計算することを推奨します。商品によっては大きな差異が生まれてしまうからです。米国の地方債は税金がかかりませんが、国債社債は一般的にキャピタルゲイン20%、クーポンに37%の税金がかかるので大きな成果の差が発生します。また、デフォルトリスク等を期待リターンから差し引くことも正確な計算のためには必要です。

 

ポートフォリオ(仮)決定

前項目までのデータを使って、リスク許容度を超えないように資産配分を決定します。ポートフォリオ全体の標準偏差が、リスク許容度に近くなるようにポートフォリオを組むのですが、この時に年率リターン、CVaR、最大ドローダウン、シャープレシオソルティノレシオ、流動性等々を確認しながら、最良な資産配分を決定していきます。

ご参考までに、上記までのデータを使った抽出された基本ポートフォリオの事例です。

 

  • 流動性:2%
  • 米投資適格(国債、TIPS 社債):40%
  • 先進国HY:5%
  • 先進国株式:27%
  • 新興国株式:5%
  • 世界不動産:3%
  • 世界インフラ:3%
  • 資源:5%
  • HF:10% ※生保ファンドならば24%も可能

 

⑦どの時点でジョインするか

 ドル・コスト平均法の優位性はあると考えます。しかし、よく運用会社で推奨されている「毎月積み立て」は、工夫の余地が残されています。毎月積み立てによって、景気サイクルの位置に関わらず、毎月という間隔で資本投下すると、上昇トレンドでは平均単価を上げてしまうというリスクがあります。また、現在から、ドル•コスト平均法の効果が発揮されやすい急落局面〜上昇に転じるまでの間、投資を継続できるほどキャッシュが潤沢であるかという点が重要になります。

 ですから、ポートフォリオの組成期間、一回あたりの投資金額、投資間隔は重要なポイントです。過去の景気サイクルの終盤局面を分析すると、3月から投資を始めるならば、約2.7ヶ月毎に、総投資額の5%(最後の複数回は10%)ずつ投下して行き、4-5年程度かけてポートフォリオが完成するイメージです。UBSのレポートで、機関投資家が予想するリセッション入りは2020-2021の期間で75%でしたが、上記の間隔で投資を続ければ2024年までに急落局面が来れば購入単価が極めて安くなります。急落後は二番底を警戒しながら、通常中銀による金融緩和によって上がり始めるのでしばらくの間は資本投下を継続します。また、商品毎にエントリー期は変えてもいいかもしれません。例えば、クレジット関連は格下げやスプレッドの反転に備えて、高格付かつ短いデュレーションから手をつけたり、小型やHYなど流動性の低い商品は様子を見てもいいかもしれません。

 

⑨運用対応

 主に、以下の対応が挙げられます。

  • 相対的に上がったものを売り、下がったものを買うことによって、資産配分比率を維持します。
  • 戦術的資産配分を組み入れて、バーゲンハンティングのような機会があれば拾います。また、企業業績が落ちて、株式マーケットでリターンが取りにくくなる局面では、資産配分を組み替えたり、アルファを狙う短期的な売買を行います。しかし、昨今から続く量的金融緩和でアルファが創出される機会も減少しています。金融緩和→低金利ボラティリティの低下→価格変動の差分が縮小するという流れです。しかし、今後はこれまでとは異なるかもしれません。現状ドットチャート上では0回の利上げですが、量的金融緩和の縮小でアルファの創出機会が増えるかもしれません。
  • 経済/金融のページを執筆しますが、各種指標をチェックしながらリスクシナリオ・資産配分を調整します。短期で変わることはまれなので、四半期に一回という感じでしょうか。一例ですが、
  • 重要な指標と考えられるものは、すべてチェックします。
  • 2-10年のイールドカーブFOMCの誘導目標と市場の折り込み度合い(先物など)、政策金利と同じくらい長期金利は上がるか検討
  • 失業保険新規申請者数(3ヶ月先行)、失業率、雇用者数/非正規社員(経営者の見通し)と比較しながら、大きくマイナスになったら注意
  • PMI、特に米国のISM製造業は24mくらい先行、ドイツZEW期待指数、現状指数
  • 単位あたりの労働コスト(非農業部門は30Q先行)が上がれば、消費者信頼感、コアCPIも上がりやすく、FRBの金融政策にも影響
  • 原油先物
  • コンテイジョンは調整前に起きやすいので、トルコ、イタリア、アルゼンチンなど脆弱な国や、インドネシア、マレーシア、ポーランドなどの経常収支が悪い国を観察。こうした国々はUS Liborのスプレッドが上がるとドル調達が難しくなるので、世界経済に先行して落ちることがあります。いくら金利が高いとは言え、物価が急激に上昇してしまえば為替は上がりにくなります。
  • クレジットは、デフォルト率とデュレーション(50年程度の変化)を追います。昨今の金融政策によってGDPを上回るほどに起債が増えていて、一方で資金した資金の多くは自社株買いに費やされています。多額の起債は高い利回りが正当化しているようですが、利上げ局面では生産性との兼ね合いでは一つのイベントになりかねません。

  

レバレッジデリバティブは別の記事で執筆しようと考えています。

※資産のリターン・リスクのデータは過去のものですので、現在と過去の違いからデータを検証し直す必要があります。例えば、新興国債市場は非常に大きな市場規模で、ある程度低いリスクで高いリターンを獲得することができました。しかし、先進国の財政悪化によって信用リスクが増大し、先進国の成長率低下による利回りの低下もあいまって、先進国国債のリスクは大きくなって来たのにも関わらず、利回りは8→2%と数十年前と比較して悪化してしまいました。