これだけは知っておきたいシリーズ 〜金利〜

米国を筆頭に、10年続いた低金利政策に終止符を打とうしておりましたが、足元の景気指標の悪化を受けて、ここ最近の主要国、主要地域はハト派に転じつつあります。例えば、米FRBはガイダンスで利上げ休止が数ヶ月続く可能性を示しています。中国は3月の全人代で、金融政策に関する声明から「中立」という表現を削除し、ECBは政策金利を19年末まで据え置く方針としました。

このような金融政策は、今後の経済環境と資産価格にとってはキーバリュードライバーになりそうです。過去を参照すると、2000年初期、米国の低所得者層は、担保(住宅)と高金利を条件にサブプライムローンを組むことによって、住宅を購入することができました。サブプライムローンを提供していた金融機関が、貸し手としての債権を証券化し、投資家や他の金融機関に売却したことを皮切りに、世界中の個人/機関投資家サブプライム証券に大量の資金を流し込みました。しかしながら、FRBが2004年中頃から徐々に金利を引き上げたことによって、それまで順風満帆と思われていた住宅業界に影を落とし始めます。当時の不動産会社は、低所得者に不動産を販売する際に、「サブプライムローン金利は上がっていくが、住宅の値上がりによって金利上昇分を相殺できる」という建前で販売していましたが、金利上昇によって不動産価格は下落、借り手である低所得者にとっては債務返済コストの上昇が発生し、債権の焦げ付きが大量に発生しました。その不良債権を大量に取り扱っていたリーマン・ブラザーズの倒産し株式(倒産の場合無価値になる)・債券が大幅下落するだけではなく、同社が融資していた会社は資金繰りが悪化し連鎖倒産しました。これを受けて、金融不安による大量の株売りによって、世界中の金融マーケットは大暴落していったというのがリーマン・ショックです。金融アフォーダビリティが改善(金利の下落、金融機関の貸出姿勢の改善)されると、通常融資を受けることのできない低所得者層や小企業が融資を受け消費や投資に費やしやすくなります。そして、消費された財やサービスの販売会社やその従業員の給与が増えますので、新たな消費や投資が発生することで、経済が波及的に成長することを信用創造と言います。逆に、金融アフォーダビリティが悪化(金利の上昇、金融機関の貸出姿勢の悪化)すると、デフォルトリスクの高い低所得者や小企業にとって打撃となります。少しでも金利が上昇した時の、債務返済コストの上昇分が所得を上回り、赤字になってしまうからです。そうすると、消費や投資はできるだけ避け、何も生み出さない債務返済に資金を注ぐことになりますから、他の誰かの財・サービスは売れずに所得は増えません。その誰かの借金返済も滞ってしまうかもしれません。このような事態では、M2の増加による経済効果が急激にシュリンクします。このような事態は、リーマン・ショックだけではなく、バブル崩壊など、過去になんども顕在化しています。ですから、金利は、経済動向・資産価格を考える上で、極めて重要なファクターとなるわけです。

 

今回は、金利についてお話ししようと思います。

金利とは、なんでしょうか。ご承知おきの通り、国債の利回りです。詳しくは、債券の項目で詳しくお話ししますが、国債に付された利金は一定ですから、市中で取引される国債が安くなればなるほど利回りは上昇、逆に買われて高くなればなるほど利回りは下落します。(不動産も同様に、家賃が一定であれば、価格が下がれば利回りは上昇し、価格が上がれば利回りは下落します)

また、国債によって、償還期間は1日から数十年までのものがあります。しかし、個人投資家は、2年(短期金利)と10年(長期金利)を見ておけば問題ないと考えています。

 

- 長期金利:10年物国債金利で、金利全体の動きを表す指標として重要です。住宅ローンなど長期貸出金利の指標、長期の預貯金、新発の10年もの個人向け国際の参考となったりします。

- 短期金利:2年物国債金利で、一般的には中銀による政策金利によって大きく左右されます。

- それ以外の期間は無視しても構わないと思いますが、ニュースで頻出する金利関連の用語は押さえたいところです。

  - FFレート:米国の政策金利です。中銀は、FFレートを通じて、短期金利に影響を与え、結果として長期金利にも影響を与えようとしていますが、最近、FF実効レート(米国の政策金利)とドットプロットの乖離が話題になっていて、金融政策の有効性が問われています。

  - 中立金利:景気に刺激も抑制も与えない実質金利水準です。若干の推計が必要です。

  - ドットプロット:FOMCボードメンバーの考えるあるべき金利水準で、3ヶ月に一回公表されています。ボードメンバーの見通しの中央値が、ドットチャートの中央値で、利上げ期には利上げの打ち止め水準として参考にします。

  - FFレート誘導目標:実際に金融政策によって、政策金利をどの程度に誘導するかを示します。FOMCの声明で、「2.00%-2.25%」といったレンジで発表されます。

  - 実質金利名目金利から物価上昇率を差し引いた金利で。名目金利から物価上昇率を示すPCEデフレーターの前年比を差し引いた金利です。例えば、預金金利5%によって100円が105円になったとしても、インフレ率が2%ならば100円の商品が102円になるために、5%というよりもインフレ率との差である3%の金利がついたと考えるほう現実的です。

  - FF金利先物:ドットプロットはFOMCメンバーによる見通しでしたが、金利先物は市場関係者の予測する金利で、年末の12月限と翌1月限の平均です。よく「金利折り込み」と表現されますが、よく使われるのは、「FF金利先物Fedの金融政策変更をどの程度見込んでいるか」を示しています。例えば、ボードメンバーの見通しであるドットプロットでは、「1年以内に25bp(米国の一回あたりの利上げ/利下げする%、0.25%)を2回利上げすること」が見込まれている場合(Fed見通しと現在のレートの差)、金利先物市場においても同期間の金利水準が同程度である場合、金利が折り込み済み」という言い方をします。

それを式に直せば、織り込まれた確率を示すことができます。

{(100-FF金利先物)-現在の実効FFレート}/(引き上げ後のFFレート-実効FFレート)

 

話を戻します。国債の(名目)金利はどのように決まっているのでしょうか。

実質金利+期待インフレ率+スプレッド(新興国のデフォルト等リスクプレミアム)

昨今の米国のように失業率が過去最低水準で、賃金上昇率がジワリと上昇してきているような環境下では、インフレリスク(購買力の低下)が懸念されます(原油が安いのでインフレ圧力は低下しています)。インフレが予想されるならば、同時に企業の増益が見込まれます。そうした見込みのもとでは、固定的なクーポンしかもらえない国債よりも他のリスク資産に投資したほうが効率的です。結果的に、国債は売られ価格が下落することによって金利は上昇しやすくなります。もちろん金利上昇懸念が出てくると、株式は下落しやすくなります。

このように、一般的には金利が上昇すると、株式や不動産などの資産価格は下落する傾向にあります。逆も然りです。なぜなら、金利が上がれば、資金調達コストが上昇しますし、変動金利を採用している債務者にとっては資金返済に要するコストも上がるからです。別の見方をすると、金利が上昇すれば、国債との比較で株式の要求利回りは上がります。企業が生み出すキャッシュフローをDCF法で割り戻した時に、分母が大きくなるわけですから、企業価値は減少します。もちろん、インフレが発生すればキャッシュフローの増加圧力がかかりますから、分子も同様に拡大し、結果的に金利が上昇しても株価はあまり変動しないことは多くあります。

企業業績や経済環境に影響の与える金利は、Fedが金融政策を通じて調整しています。完璧に制御することは不可能ですが、金融政策を決する大きな要因はインフレ率です。金融政策の誤りは、最悪のシナリオではリセッション入り(ここでは成長率が潜在成長率を、市場参加者がリセッション入りであると認めるほどの期間下回ることを指します)を招きかねないですから、慎重になっているわけです。話を戻しますと、上で触れた通り、企業利益が伸びた分だけ、金利=資金調達コストも上昇しているケースでは、現在長期金利と株価に明確な逆相関は見られません。しかしながら、経済が悪いのにインフレ率だけが上昇するケースがあるようです。例えば、生産者物価の上昇です。インフレ率の上昇分だけ、企業の売上高は上昇しますが、生産者物価が上がるということは仕入れ値等が増えるということですから、企業の利益は増えません。企業の設備投資や従業員の給与も伸びにくくなりますから、消費や借入金を増やそうとする動機が小さくなるかもしれません。しかし、Fedはインフレ率が上昇してしまうと、経済の混乱を防ぐために利上げをしますから、景気にとっては益々マイナスの影響を与えます。経済が伸びていないのに、インフレ率が高まることを、スタグフレーションといいます。関税による輸入物価上昇懸念やOPECによる減産の取り決めや米国によるイラン・サウジへの制裁によって原油などのコモディティ価格が上がつたり、国の財政が悪化したときに、このような悪い利上げがされやすくなります。昨今の経済環境についていえば、2016年6月以降、米国長期金利は上昇を続けており、その大きな要因は期待インフレ率の上昇です。先に触れた通り、米金利による株価下落は中長期的には発生せずに昨年10月には米株価は史上最高の高値を叩き出しました。期待インフレ率を表す主な指標は10年物ブレークイーブンです。10年固定利付国債金利から10年物価連動国債利回りを差し引いたレート(bp)であり、実質金利とも言います。

FRBは金融政策を考える上で、PCEデフレーター(物価上昇の圧力を測る尺度)と10年ブレークイーブンに注目しています。一定期間10年ブレークイーブンがインタゲ2%を上回っている状態が続く(ことが見込まれる)と利上げが予想されます。ブレークイーブンが1.5%から2%の間では、金融引締の心配もありませんが、そのレンジを既に抜けていますから、期待インフレ率が回復しただけで株式を買っていた投資家は、今後以前のような上昇相場は期待しないほうがよさそうです。

為替も同様です。為替はどのように決まるでしょうか。これは、その時代や局面によって重要視される指標が異なります。しかしら、パターンはあります。(1)実需(輸出入や旅行)、(2)経済指標(特に、GDP、非農業部門の失業率、経済収支、CPI)、(3)金利、(4)経済政策(特に経常収支が良くなるならば買われやすい)、(5)ポジションの傾き(ロング、ショート、スクエアなどのポジション比率が大きく傾いた時など)、(6)政治(安定性)、(7)テクニカル(トレンドラインと5日/25日移動平均線だけでいいと思う)、(8)リスクオン/リスクオフです。特に金利については、ここ最近最も重要視されています。例えば、昨年米国が利上げしたことに伴い、新興国との金利差が発生しました。名目金利新興国の方がはるかに高いですが、上で説明した通り、新興国のデフォルトリスクプレミアムを差し引くと、実質金利では米ドルの方が有利と判断されたのだと思います。一般的には、高金利の国に投資したほうがリターンが高いため、資金が集まり、為替レートは上昇しやすいのです。補足ですが、ドルと他国の通過の間で、スプレッドが大きく開いているために注意する必要があります。国家間の株式や為替、同種のアセットクラス間でも同様のことが言えますが、単にスプレッドが大きいという理由で、急速かつ短命に売り買いがなされ、スプレッドが縮小することがあります。ドル高全面安の場合、ドルが安くなるのか、他の国の通貨が高くなるのかはたまたその組み合わせかは定かではありませんが、足元では米国の減税効果の剥落懸念や他国の利上げ、または中国の景気刺激策の規模感によるスプレッドの縮小が発生する可能性もあります。

日本は、(実は私たちの生活に密接している財・サービスに限定すればそこそこ物価が上がっているのですが)インタゲ2%が程遠く、金融緩和を続ける可能性が高いので、日米の金利差は今度拡大する可能性があります。金利差に着目すれば、ドル買いですが、景気サイクル後期に伴うボラティリティの高まりでリスクオフによる円買いやスプレッドの縮小がなされる可能性があります。実はここにも落とし穴があると考えます。政治的要因です。昨年米国と、カナダ、メキシコ間の貿易協定で為替条項なる取り決めがありました。現在はの米中貿易協議でも、「中国は元安誘導を行ってはならない」という為替条項に関する合意がなされそうだという報道があります。今後、協議が本格化する日米TAGにおいても論点に上がる可能性が浮上しているのです。つまり、トランプ氏の圧力による、日銀へのテーパリング圧力です。米国からの圧力によって、日銀が為替操縦(スポット市場への介入)を行い、実質的には円高誘導がなされる可能性があるのです。こんなことは、口が裂けても米国は認めない?でしょうけれど。

ちなみに、金利予測は不可能です(笑)。高性能のコンピュータを用意して、頭のいい人たちが複雑なモデルを組んで、ビックデータをいくら分析しても当たりません。実際にこれまで金利予測(FF先物の折り込み)が、金利の動向を当てたという経験は多くありません。なぜなら、トランプ大統領が何をいうかは誰も予測できないからです。ですから、(いつもこの結論になりますが)、インフレ率の上下、金利の上下を踏まえたポジションを作っておくことが大切だと考えています。

 

ちなみに、最近の逆イールド現象あるいは過度な引き締めが起きないかということについて、いくつかの可能性を考えてみます。

 FF実効レートと米10年物国債利回りのフラット化に続き、米10年物国債利回りと米3年物財務省短期証券(Tビル)利回りの逆イールド化によって、リセッション入りを予測する投資家が多くなっています。1960年以降、上述の逆イールド化が発生してからしばらくした後に、1966年を除き例外なくリセッション入りしているのです。特に88年、99年、05年はそれぞれ3年後、1年後、2年後のリセッション入りは有名です。この理由は二つ挙げられることが多いです。それは、第一に「長短金利の逆転が金融機関の利ざや(短期調達、長期運用)を圧迫し、貸出姿勢を悪化させるから」、第二に「市場が景気見通しの悪化や利下げを予測し、金利先物が織り込むから」です。過去の事例を見れば、中立金利は多少推計が必要ですが、1960年以降のほぼ全ての局面で、米実質金利から市場に刺激も抑制も与えない水準の米中立金利を差し引いた乖離率が、150-200bp(ベーシスポイント)を超えています。結果として、金融機関の利ざや縮小や支払利息の増加に伴う企業業績や家計(クレジットや消費量)の悪化に繋がり、数年後にリセッションに入るというものです。

 今回はどうでしょうか。唯一の例外である1966年パターンと同様に今回の米中立金利は実質金利を若干ながら上回っており、1960年以降のパターンには当てはまりません。米金利実質は下がっています。具体的には、期待インフレ率(10年物BEI)とWTI原油、期待インフレ率とシティが算出する米エコノミック・サプライズ指数(市場予想を上回る経済指標が多ければプラス)も大まかなところ連動していましたが、3月以降崩壊しています。この理由はいくつか考えられます。第一に、政治的圧力です。第二に、低インフレ率からの脱却です。第三に、ECBによるマイナス金利長期化予想です。まず、第一の政治的圧力ですが、トランプ大統領は金融緩和を好むことと、FOMCのボードメンバーの承認・解任は上院(現在、トランプ大統領共和党が過半を占める)の多数決で決まるという二点がキーです。19年末には「トランプ大統領がパウエルFRB議長の解任できるかを確認」、今年4月には「トランプ大統領がボウマンの続投を再指名する」というニュースが流れていました。3月のFOMCでは金利据え置きが発表されましたが、タカ派が声をあげなかったことを考えると、自身の身を案じた政治家への忖度が起きていのかもしれません。第二の低インフレ率からの脱却では、2月の金融政策フォーラムでクラリダFRB副議長が「長期インフレ目標がアンカーされていない」旨の発言をしました。つまり、米インフレ率がこのまま低水準にアンカーされてしまうと、企業や家計によるインフレ期待は低下して、現実的にインフレ率を押し下げてしまうのではないかと言った懸念を一つの材料として、政策金利を据え置いたのです。昨今の米金融政策はインフレ率重視の傾向が強く、原油の急騰や労働市場(失業率の歴史的な低さや、賃金上昇)によるインフレは金利上昇の要因となるかもしれません。第三のECBのマイナス金利長期化予想ですが、2014年にECBと日銀が金融緩和したことによって、相対的に米ドル高(為替高は輸入物価上昇によるインフレ期待要因)圧力がかかり、サーチフォーリターン勢による米国債市場への資金流入(米株も上昇)、米金利低下へと繋がりました。このドル高は、チャイナショックの要因ともなったので根強く記憶されています。

 理由は様々考えられますが、現状中立金利と実質金利の逆転は発生していないことから、1966年と同様のシナリオも一つ考慮しながらも、米国債への資金流入労働市場原油による急激なインフレ率上昇、トランプ大統領によるFRB介入というシナリオもポートフォリオへ組み込む必要がありそうです。

 

ちなみに、金融機関が、短期調達に対する長期運用の期間(融資期間)を誤ってしまったり、日本の不動産投資ローンのように、信用供与を大幅に増加させ、地価や資産価格を上昇させてしまっりした場合、結果として金融機関の貸出姿勢が悪化する可能性があります。その結果、地価や資産価格の上昇の結果長期国債利回りが上がったり、信用供与が減少することによってクレジット量が減ることにより、支払利息の上昇と利用できる融資枠の減少(間接的に自己資金や担保を要求される)によって企業と家計の心理が悪化し、投資・消費量の現象を招きます。これは、89年バブル崩壊、08年の米サブプライムショックにもあらまれましたが、昨今のアパートローン問題も含めて、担保や債務者のエビデンスを偽装して、貸してはいけない者・会社にクレジットを与えすぎることが原因となることが多いです。その手法は米国ではデリバティブ、日本では書類を書き換えるという古典的な手法で、憂うべきか否か悩みます。

 

補足ですが、FRBのバランスシートが金融政策に少なからず影響を与えていると考えます。利上げを行えば、政府、中銀、企業や家計の支払利息が増えることになります。これが、労働生産性を越える時に、金融危機の原因でもある信用縮小(クレジット量と消費量の減衰)が発生しやすくなりますが、利上げの上限を中銀の利払いという見地から推測することもできる。例えば、FRBが利上げをすれば、FRBによる金融機関への支払利息が上昇します。具体的には、バランスシートの準備預金のうち「超過準備預金」、「リバースレポ残高」の支払利息が増加します。一方で財務省証券やMBSの受取利息を原資として、支払利息に充当されます。例えば、19年1末のFRBのバランスシートの負債の部には、「準備預金1,609,140百万ドル」「リバースレポ249,236百万ドル」が計上されていますが、超過準備預金金利(FF金利の上限金利)は2.4%、翌日物のリバースレポ金利(FF金利の下限金利)は2.25%の合計約41,100百万ドルを支払利息として、各金融機関に払っています。一方で、同時期バランスシートの資産の部にある「財務省証券2,220,012百万ドル」「MBS1,621,810百万ドル」で、FRBの受取利息は約64,500百ドルです。しかし、実際はFRBのバランスシートは段階的に縮小が続いており、この受取利息は減少していきます。FRBFOMCで追加利上げの一時停止を示唆しましたが、バランスシート縮小の早期終了も示唆ししたのは、受取利息と支払利息の逆転による財務悪化も一つ理由に挙げることができます。

 

最後にご参考までに、最近の各中銀の動向です。

  • 20年3月の中国の全国人民代表大会で、景気減速を食い止める対策を強調しつつ、2019 年のGDP成長率目標を6.0‐6.5%に引き下げました。対策として、2兆元規模の減税と社会保険料引下げを発表し、金融政策に関する声明から「中立」という表現が削除されました。今後の金融緩和政策を暗示しているのでしょうか。
  • ECBは、銀行からの貸出を促す貸出条件付の長期資金供給オペ(TLTRO)の再開を発表し、初回利上げの時期を繰り下げています。先週のECB会合で、2019-2020の経済成長見通しが大幅に下方修正され、181.9%から191.3%(昨年11月は1.9%予想、欧州委は1.7%と楽観的な予想)、20201.6%(昨年11月の見通しでは1.7%)を見込む。特にイタリア、英国は低成長の見込みです。2019-2021年のインフレ見通しも引き下げられ、市場予想よりもハト派的な姿勢が示されました。理由として、貿易摩擦と公的債務の拡大、中国の景気減速によってEU内の景気減速を見込んでいます。フォワドガイダンスでは政策金利2019年末まで据え置く方針(従来よりも後ろ倒し)が示されましたが、ECBの示す2019末までのGDP成長率は18年の水準を若干下回る水準に設定されており、相変わらず楽観的ではないかと考えます。2020年中旬ごろまでは続く可能性もあると考えます。
  • FRBは利上げについて辛抱強く見守る姿勢に転じており、ガイダンスで利上げ休止が数カ月続く可能性もあることを示唆しました。先週発表された非農業部門雇用統計は、失業率が4,0%から3.5%に低下し、平均時給の伸びが金融危 機以降最高となる前年同月比3.4%増を記録し、インフレ圧力は高まっていますが、雇用統計の発表ご金利は低下しましたコアPCEインフレ率は FRBの目標近辺の1.9%にとどまっている。消費 者物価指数(CPI)が予想を大幅に上回った場合、FRBが市場予想より早目に金融引き締めに 転じる可能性があり、そうなれば株式市場に影 響を与える可能性があります。

運用で最も大切なことは、ポジション管理

 一部の市場参加者は、「主要なシナリオについて確信に満ちた状態」という印象です。例えば、「緩やかなインフレ率の下、英国を除くG7の経済成長はピークを過ぎるも、堅調に成長する。」というシナリオは、確かに日々のマクロデータで検証されつつあります(最近足元指標は悪くなってきました)。反対に「市場参加者がリセッション入りと認識するほどの期間、経済成長率が潜在成長率を下回る」というシナリオもあながち誤りだと明言できません。しかしながら、どれほど確からしいシナリオでも、単純に受け入れてはならないと考えています。後述の通り、マーケットがどのように反応するかなど、世界最先端の複雑な理論を使って、大量のデータを分析しても外れるからです。

 一方で各社が「重要な課題として、何をリスクと捉えているか」は大まかなところでは一致しているようです。それは、「米国の利上げペース」、「原油価格の動向」、「中国の景気刺激策の効果」です。前者2つのキーバリュードライバーは期待インフレ率の動向ですが、その根源には「米中の経済が安定的に成長するか」という問いかけがあります。GDP成長だけではなく、周辺地域との関わりにおいても、米中が世界経済そのものを動かしていると言っても過言ではないからです。その動向が、日本を含む先進国、新興国の経済状況や資産動向を大きく左右するでしょう。

  • 第一に、Fedの利上げ回数です。逼迫した労働市場/賃金上昇率や、不安定な原油価格や関税による生産者物価の上昇によって、予想を超えてインフレ率が上昇下場合、Fedの利上げ回数が上昇してしまうこと(私はベースシナリオでは1回と予測)です。それによって、市場コンセンサスでは、米国の予想成長率は、18年2.6%から19年2.0%へち減速を見込んでいますが、実績が、潜在成長率を多少上回るのか、一時的に潜在成長率が実績値を下回るも徐々に戻すのか、市場がリセッション入りとみなすほどの期間下回るかのかによって、経済・資産価格は大きく左右されるでしょう。
  • 第二に、中国の景気刺激策です。デレバレッジ(質的な引き締め)に対する景気刺激策の効果が、昨今のデレバレッジや関税による影響を穴埋めできるほどのものか。例えば、2016年では、中国の経済刺激策がきいて、数ヶ月後に世界中の景気指標が回復したことは記憶に新しいです。
  • 第三に、原油です。世界的な貿易量の減少を背景に原油の需要には減少圧力がかかっていますが、イラン制裁・サウジ懸念など地政学的な緊張の高まりによりエネルギー輸出が部分的に途絶し、供給量が限られることによって価格高騰が懸念されます。その後、企業の生産者物価に悪影響を与え、インフレ率が予想を超え短期的に上昇し、金融政策に悪影響を与える可能性があります。

これらの3つが、経済/資産価格に大きな影響を与えるということは、大まかなところでは一致していると思われますが、3つの重要な課題から分岐するシナリオは具体的にどういうものなのかという見解はまばらです。第一と第三の項目は、FRBの金融政策に影響を与えるわけですが、それによってソフト〜ハードランディングのグラデーションの中で、どこに着地するかに大きな影響を与えると考えます。良い方向に考える者、悪い方向に考える者、現状と大差ないと考える者といったふうに様々ですが、これも景気サイクル後期では良くあることのように思います。

市場参加者がどのような未来を見込んでいるのかによって、日々のマクロデータやニュースは解釈されマーケットは揺れ動くわけですが、時代や短期的な局面によって重要視されるデータや解釈は異なります。例えば、2018年の米中間選挙でねじれ国会が誕生しました。それを受けて、当初は「政策運営が困難になったため売り」というシナリオが優勢でしたが、翌日は「イベント通過、不透明感が払拭されたため買い」,その後は「ねじれ議会による外交穏健化」と日に日に移ろい,史上最高株価を叩き出した共和党の政策は見事に忘れ去られたかのようでした.このように「ねじれ国会」というテーマ一つとっても、アニマルスピリッツはデータを都合のいいように解釈し、「連想買い→妄想と気づく」を繰り返します。

加えて、リセッションを含め様々なシナリオが混在し、このような思惑が入り混じりやすい景気サイクル後期では、高ボラティリティが発生しやすくなりますが、それに拍車をかけるように近年増加したCTA等ファンド勢がボラティリティを高めているようです。

カオス的なマーケット環境下で、予測をすることは無謀と言ってもいいかもしれません。その証左として、運用会社や証券会社がどれほど複雑なモデルを使っても、先に触れた業績についても、金利先物についても半分以上は外れる印象です。

投資の本質は、ポジションの管理です。ポジション管理とは、現預金を含むアセットがどのようなリスク(リターン)シナリオ(重要課題の展開)の上に横たわっているのかを把握し、それら考えうる可能性としてのリスクシナリオが生み出すマーケットへの影響をできるだけ排除するような、資産配分、プロダクト、投資戦略を構築することによって、上下動く世界の成長を少ない誤差で収穫しようということです。もちろん、よく本に書いてある標準偏差や期待ショートフォール、最大ドローダウン、シャープレシオソルティノレシオなどの算出は、こうした戦略構築の一環であります。

しかし、トランプが何をいうかわかりません。ですから、「将来は実現した時にようやくわかる」という私の立場では、3つの重要課題あるいは日々のグローバルな重要な出来事がもたらしうる複数のシナリオごとに、マーケットへの影響を評価し、ポジション管理を徹底するということです。そうした解釈は、資産配分比率や運用のタイミング(どれくらいの間隔で何%ずつ資本投下するのが有利か)、リスク量の管理、デリバティブなどの戦略に現れますから、どのようなリスクシナリオの上に私たちのアセットは横たわっているのかをできうる限り認識したいところです。私の顧客は、今の時点で2.7ヶ月に一度、4%程度ずつポートフォリオを作っているので、5年強の間でリセッション入りしてくれるとパフォーマンスがグッと上がるなーと思っています。

ポジション管理のなかでも資産配分については、世界トップ中のトップの投資家たちが、言及するところでもあります。例えば、Yale大学基金「投資の成果の8割は、資産配分に起因する」、ブリッジウォーターのレイ・ダリオさん「投資家として重要なのは、最も重要なのは優れた資産配分戦略を持つことだ。言い換えれば、次はどうなる、何がよくなり何が悪くなるかを知ろうとしても勝てないということ。間違いなく失敗する」。単純に、彼らのポジションを真似すれば、キャッシュの潤沢さも取れるリスク量も異りますから、痛い目を見ることになるかもしれません。ハーバード、イェールなど大学基金、年金、保険が使っている「オルタナ戦略」は、キャッシュリッチで、最大ドローダウンが生じても、平均単価を押し下げることができるというポジションですから、単純に個人投資家が真似してはいけません。しかしひとついえることは、資産配分の重要性は、偉大な投資家たちによって散々指摘されていることなのにのに、投資のタイミングや、プロダクションの選定にこだわるのかよくわからないということです。もしかすると「この会社は上がる」というシナリオの方がわかりやすくていいのかもしれませんが、多くの資産クラスにとって、今後の10年は、過去の10年と同じようにはいかないことは、過去30年の各資産のIRRをとってみれば、よくわかります。いつでも勝てる投資というものは、ほとんどないのではないでしょうか。

単一のリスクに全てを捧げるのではなく、ポジション管理が大切です。

激動の不動産業界〜金融機関による貸し渋りとお手伝い〜

地銀、信用金庫が不動産融資を貸し渋り始めたのは17年終わり頃からですが、実際にスマートデイズ、サクト、ゴールデンゲイン等々の問題が報道され始めた時期は2018年初めです。それによって、スルガ銀の不動産融資が一部を除き利用できなくなり、築古マンション市場が壊滅状態になりました。その後、一定水準以下の属性が融資を受けづらい状況が続いていますが、この傾向は今後も続くと考えています。

 

私の知人もシェアハウス詐欺の被害者の一人で、シミュレーション家賃5.5万円に対し引直家賃は1.5万円でした。色々と苦心しながらも、非営利団体/役所と提携することによって、家賃5万円を確保することができましたが、それでも内部収益率は極めて低い水準でした。それよりも驚いたのは、全部屋のエアコンが盗まれていたり、キーボックスを電動工具で切り離した跡だと思いますが、外壁の一部が焦げの跡が残ったりしていたことです。実際に、シェアハウス業社の代表者がノエミーだったこと、同スキームを別の業者が使っていたことを考えると、黒幕がいたと考える方が自然かもしれません。

 

そして、TATERU/西京銀行の一件が表面化します。(オーバーローンは多く業者もやっていた?と思いますが)二重契約の社会的な問題視が、金融機関の貸し出し姿勢悪化に拍車をかけ、2018年8月時点の不動産会社倒産件数は2000-2017年平均の3倍に膨れ上がりました。恐ろしい数字で、真面目に商売してきたのに泣きを見る会社も多かったろうと思います。事業ポートフォリオが再販や仲介に偏っていたり、ハイエンド顧客を抱えていなかったりする会社にとっては、今も、ですが。

 

そうした流れを受けて、楽待のセミナー広告や企業動向のニュースを見ていると、金融機関の貸し渋りによる営業利益の減少を避けるために、各社対策を打っているようです。例えば、賃貸/建物管理、ハイエンド顧客の開拓、二種金/不特による不動産小口商品の開発を始める企業も続々と増えてきました。

 

不動産会社様をできる限りサポートしたいと思っています。例えば、賃貸管理の手数料率は家賃の5%が平均的な水準ですが、オーナー・賃借人から超過的に手数料を徴収することなく15%化する方法や、効果的な小口商品の作り方、ハイエンド顧客の紹介をしていきたいと考えています。それ以外にも、貸し渋り期の資金調達スキーム(組織構造の工夫やメザニンは社債にするなど)について、信金と開発しておりますが、早くお役に立てるように頑張ります。